旧静岡県清水市(現静岡市清水区)で一家4人が殺害された、いわゆる「袴田事件」の差し戻し審は、重要な局面を迎えています。最高裁が審理のやり直しを東京高裁に命じたことが明らかになってから、12月23日で2年。「再審」について、東京高裁は今年度中に決定を下すとしていて、注目を集めています。

<袴田弁護団 小川秀世弁護士>
「この『袴田事件』を再審を勝ち取らなければならないと思います。よろしくお願いいたします」

浜松市で行われたのは、袴田巖さんの無実を訴える支援者らが主催した講演会。今回で61回目を迎えます。弁護士は再審開始を涙ながらに願いました。

いわゆる「袴田事件」は、1966年に旧清水市でみそ製造会社の一家4人が殺害されました。従業員だった袴田巖さん(当時30)が逮捕され、無実を訴えましたが、死刑判決が確定しました。

死刑判決後も弁護団や支援者らは、袴田さんの無実を訴え続け、事件の矛盾点を探してきました。そして、迎えた2014年。

「いま、袴田さんが釈放されました。袴田元被告が釈放されました」

静岡地裁の決定で48年ぶりに釈放されたものの、袴田さんは“死刑囚”のままです。拘禁症状が強く残る袴田さんをそばで支えるのは、姉の秀子さん(89)です。

<袴田さんの姉・秀子さん>
「とにかく生きて刑務所から出てきてくれたのが、なによりですよ」

釈放後も検察と弁護団の攻防が続いた「袴田事件」。東京高裁が2018年、再審開始を取り消しましたが、2年前の2020年12月、最高裁は審理のやり直しを東京高裁に命じました。

差し戻しのポイントとなったのが、犯人が犯行時に着ていたとされる「5点の衣類」の信ぴょう性。5点の衣類は、事件から1年2か月後に、みそ製造会社のタンクの中から見つかり、当時の捜査資料には、血痕は「濃い赤色」などと記されていました。

弁護側はこの「赤み」を不自然だと訴え、実験の結果、「血痕を長期間みそにつけると赤みは残らない」と結論付けました。5点の衣類そのものが捜査機関による捏造だと主張します。

一方で、検察側は独自に実験を行い、「実験で一部に赤みが観察され、血痕の赤みが残る可能性を示せた」と意見書にまとめています。

弁護側と検察で主張の対立が続く中、2022年11月、東京高裁の裁判長が、直接、静岡地検を訪れました。同席した弁護側によりますと、裁判長は検察側の実験結果を確認し、書記官が血痕のついた布を写真に収めたといいます。

<袴田弁護団 小川秀世弁護士>
「東京高裁の裁判官が静岡に直接来て、実験の結果をその目で見ようとすること自体が異例。裁判官の姿勢を示していると思う」

12月上旬、検察側、弁護側がまとめた最終意見書をそれぞれ東京高裁に提出。実験結果で示された血痕の変色から、双方が「5点の衣類」の矛盾、正当性を訴えました。

<袴田さんの姉・秀子さん>
「再審開始になることをひたすら願っております。そのために戦っているんです、56年も。だから、真の自由という本当の自由が欲しい」

半世紀以上にわたって無実を訴え続けてきた袴田さん。2023年3月には87歳となります。東京高裁は年度内に結論を出す見込みです。