皮膚の難病・道化師様魚鱗癬と闘う6歳の男の子、濵口賀久くんとその両親を取材した「ピエロと呼ばれた息子」は、一家の日常をリアルタイムで紹介する定期配信型ドキュメンタリー番組。
魚鱗癬とは、皮膚が魚のウロコのように剥がれ落ちる病気で、中でも道化師様魚鱗癬は症状が最も重く、国内では、30万人に1人と言われている難病です。
生まれた直後の姿がピエロの着る道化服に似ていることから、道化師様魚鱗癬という病名に。
「息子の難病を多くの人に知ってもらいたい」と願う母・結衣さんが、賀久くんが生後6か月の時にブログを開設。そのタイトルが「産まれてすぐ、ピエロと呼ばれた息子」でした。

2022年12月現在、CBCテレビの公式YouTubeチャンネルでは、90本以上の動画が配信されていて、累計再生回数は1億回を超えています。
そして、「ピエロと呼ばれた息子」は、見た目や全身のかゆみ、手足の変形などと闘いながらも、明るく前向きに生きる家族の姿を映し出しています。
ディレクターが語る取材のきっかけ
2020年3月、私はCBCテレビ報道部の三重駐在記者でした。三重県津市に住みながら、県内のニュースを取材する中で、賀久くんの存在を知りました。
賀久くんは当時3歳。私は道化師様魚鱗癬という病気を聞いたことが無く、まわりのスタッフや家族も誰一人として、病名を知りません。
魚鱗癬という病気の認知度は極めて低く、両親のブログを読んでみると、「火傷させたのか?」などと心無い言葉を浴びせられたこともあったと書かれていました。
「魚鱗癬を多くの人に知ってもらいたい」と願う両親の力になれればと思い、濵口さん一家を訪ねました。

顔を出してテレビ画面に出ることは勇気のいることです。皮膚が剥がれ落ちるなど“見た目”と闘う賀久くんにとっては尚更です。

CBCテレビの取材を受ける前…魚鱗癬の症状や日常生活を発信していた両親のブログは“匿名”でした。最初は顔を出しての取材を受けることも躊躇されていました。
病気だけでなく、明るく前向きな一家の様子を伝えることで、多くの人が勇気づけられると考え、私は実名で、顔も映す取材を提案しました。
数日後、濵口さん一家から実名でテレビに出ると連絡を受けました。相当な覚悟だったと想像します。
その時、両親は、「賀久のためだけでなく、これから魚鱗癬患者として生まれてくるであろう赤ちゃんのためにも取材を受けます」と話されました。
最初は一度きりの放送予定でしたが…
取材開始から3か月後の2020年6月。CBCテレビのニュース番組「チャント!」で10分間の特集VTRとして放送しました。(放送エリア:愛知・岐阜・三重)
放送の反響は非常に大きく、道化師様魚鱗癬を知ってもらうきっかけになりました。しかし、魚鱗癬の症状を全て伝えられたわけでなく、放送時間の関係で、やむを得ずカットした映像も沢山ありました。

まだまだ伝えるべきことがあり、何より私自身が賀久くんの成長を見届けたいと感じ、YouTubeでの定期配信という伝え方を提案。2021年4月に配信が始まりました。
週1回の定期配信、その裏側は…
コロナ禍での取材。我々、撮影スタッフが取材に行くことを自粛することもあります。
その場合は、濵口さん一家にあらかじめ預けたカメラで撮影いただき、データを送っていただく、“リモート取材”となります。
配信内容を打ち合わせした上で、撮ることもあれば、「こんな映像が撮れましたよ」と両親から、映像を提供いただくこともあります。

家族だけの空間で撮られた映像を見ると、賀久くんの表情はとても自然です。最近は我々のカメラの前でもリラックスしてくれるようになりました。
撮影した映像は、すぐに編集・配信することを心掛け、なるべくリアルタイムで視聴者と出来事を共有できるようにしています。
取材を受ける濵口さん一家には大きな負担となっているはずです。一家のペースで、撮影を続けていきたいと考えています。
取材半分、遊び半分
取材スタッフは、福嶋カメラマンとディレクター(筆者)の2人体制。賀久くんの楽しみは、取材後の定番となった我々とのテレビゲーム対戦です。
実は賀久くんの手には生まれつき変形があり、指先を使った細かな動きが苦手です。月に1回、リハビリ施設にも通っていますが、日常生活では…テレビゲームのコントローラーを操作する際の細かな動きが、手指の“リハビリ”になるそうです。
YouTubeでも【ゲームが良い薬に!?】と題した番組を配信。ゲームで遊びながら、リハビリする様子を紹介しました。
「リハビリのためならしょうがない…」という大義名分もあり、我々スタッフも本気のゲーム対決をしています。
(ゲームが苦手な福嶋カメラマンは、賀久くんに勝つため、ゲーム機も購入しました)

賀久くんに寄り添った配信を…
今はまだ両親と相談して、配信を進めていますが、いずれは賀久くんと直接相談して、取材内容を決めたいと考えています。

また「取材を受けたくない」と言われた場合、賀久くんの意見に従います。
これまでの取材で、濵口さん一家からは温かい言葉もいただきました。
両親のブログを紹介します。
『息子と一緒に外に出た際、メディアに出る前は
「なに、あの子」「気持ち悪い」「なんか変」といった言葉を何度も耳にしてきましたが……
YouTube配信がスタートしてからは「がく君?」「YouTube見てるよ」
「会えて嬉しい!」といった声を掛けていただける事の方が多くなり私達家族は、とても救われています。
大袈裟に言うと生きやすくなりました。
もちろんメディアに出る事によって、こうして良い事ばかりではなく、色んなご意見も届きます。
目を伏せたくなるような言葉にも向き合わなくてはならない時もあります。
ですが、それ以上に何倍・何十倍もの応援のお言葉や優しさ・思いやりのこもった励ましの声もいただいています。』(一部抜粋)

「生きやすくなった」という言葉が、取材スタッフの活力です。濵口さん一家に寄せられる心無い言葉も一緒に受け止め、考えていく覚悟です。