今年、日本新を2度記録した、陸上女子100mハードルの福部真子選手(27)。晴れやかな笑顔がトレードマークの福部選手の座右の銘は「顔晴る」。意味は「顔が晴れるように頑張る」ことだ。過去の自分と戦い続け、この笑顔を手にするまで、9年の月日がかかった。飛躍までの道のりや、ある人物との出会いなど、高橋尚子キャスターが取材した。

初出場の世界陸上 準決勝の舞台で日本新記録

2022年7月、アメリカオレゴン州のヘイワード・フィールドで開催された「世界陸上オレゴン」で、初出場ながら準決勝に進出した福部選手。12秒12の世界新記録(T.アムサン、ナイジェリア)が生まれたハイレベルのレースで堂々の走りを見せ、自身は12秒82の日本新をマークした。
レース後のインタビューでは「12秒82というタイムは想定外だったので、嬉しい」と、笑顔を見せると同時に嬉し涙を流した。

世界陸上準決勝のレース後

高橋キャスター:
レース後のインタビューで笑顔がありましたけれども、あの笑顔は?
      
福部選手:
「12秒82」って見たときに、良かったっていう安心感と日本新記録かっていう嬉しさで笑顔があふれました。

天才少女と呼ばれた高校時代

広島皆実高校時代はインターハイ(全国高等学校総合体育大会)3連覇。100mハードルでは、走幅跳の世界陸上代表・橋岡優輝選手(富士通)の母で、元日本記録保持者の城島直美さん(当時埼玉栄)、寺田明日香選手(ジャパンクリエイト)の3人のみが成し遂げた偉業だ。

平成25年インターハイ準決勝


その後、日本体育大学に進学。しかし、大学に入学すると環境の変化からタイムが伸びず、大学3年まで高校時代を超えることができなかった。

福部選手:
優勝しないと価値がないんだなっていうのをすごく感じて。私なりに一生懸命頑張っていたつもりではあったけど、世間はそれを認めてくれない。3連覇以上のものを出さないと認めてもらえないんだということをすごく感じていました。

高橋キャスター:
3連覇という成績が、自分にとって苦しいものに変わっていったということですか?

福部選手:
本当に今だから言えますけど、3連覇が邪魔で邪魔でしょうがなくて。みんなの記憶から自分が一旦消えて、1から陸上をやりたいってずっと思っていましたね。

尾﨑コーチとの出会い

コーチをつけず、自分の感覚だけを信じてきた福部選手。競技を続けることに限界を感じていた時、広島大学大学院の助教で現役ハードル選手の尾﨑雄祐さん(28)と出逢いました。

尾﨑コーチ

高橋キャスター:
尾﨑さんを選んだのは何が決め手だったんですか?

福部選手:
今まで、今の自分に何が必要で何をすべきかがわからなくて、知識不足が足を引っ張っているんじゃないかなと感じていたんですけど、尾﨑さんと話した時に今自分が欲しい知識を持っている人だなっていうのを感じたので「君に決めた!」と思いました。

2021年7月から福部選手の指導を始めた尾﨑コーチ。感覚頼みの練習をしていた福部選手を見て、しっかり勉強と練習をやり込めば、ポテンシャルを引き出せるのではないかという期待を感じていた。

福部選手のポテンシャルを最大限に引き出すために、まず尾﨑コーチが手掛けたのが勉強会。108枚の資料を用意し、課題や改善点、取り組むべき練習など、あらゆる知識を福部選手に教え込んだ。

膨大な資料

福部選手:
自分の感覚と知識とっていうのが噛み合ってくるのを月日を追うごとに感じて、練習の質の高さは1年前とは全然違うのかなと思います。

高橋キャスター:
勉強会を行うことで、今やっているのが何のためか、そしてそれがどうつながるのか、点じゃなくて線になりますよね。

尾﨑コーチ:
そうですね。体つきっていうのも勉強会で学んだことに準じて高まっているので、やっていることは正しい方向にいっているんじゃないかなと思いますね。

高橋キャスター:
私も講義を受けたい。面白い。

福部選手:
面白いですよね。

2度目の日本新記録と今後目指すもの

世界陸上の日本新記録から2か月後、9月25日の全日本実業団対抗陸上競技選手権決勝で、自身の日本記録を更新する12秒73をマーク。来年の世界陸上ブダペストの参加標準記録も突破した。

2回目の日本記録

高橋キャスター:
「73」ですよ。出た時どうでした?

福部選手:
びっくりしました。え!73!?って。

高橋キャスター:
日本一に留まらず、日本新記録も樹立されて、これでようやく高校の時のインターハイ3連覇という呪縛から抜け出したんじゃないですか?

福部選手:
グッバイ!3連覇!という感じで。陸上が楽しくなりました。もうこれからは、本当に自分の記録と勝負できるんだって思いました。

1年に日本記録を2回も更新。孤独で苦しい時期を乗り越え、尾﨑コーチと出会い、殻を破ったハードル女王が次に目指すものは。

高橋キャスターと福部選手


高橋キャスター:
最終的な目標とそこへの意気込みを教えてください。

福部選手:
パリ五輪ではファイナルに残って、5年か10年くらいは破られない日本記録をつくっておきたいなというのがあります。パーって顔が明るくなるために顔(がん)晴(ば)ります!

【取材を終えて】
高橋キャスター:
この笑顔の裏には9年ほどの苦悩があるんです。福部選手はインターハイを3連覇していて、天才少女と言われていました。周りの期待が大きくなる中で結果が出ず、ようやく今年日本選手権で優勝し、長い呪縛から解き放たれました。辛い9年間を乗り越えてからの快進撃なんです。本当の意味で心身ともに強くなったと思いました。