脳裏に浮かぶ彼女との思い出
シベリアを離れる翌朝、朝陽がシベリアの大地を照らしていた。この朝陽は、過酷な1日のスタートを意味していたからか、これまでは清々しさを感じることはあまりなかったが、その日だけは違った。
毎朝、3年以上も顔を合わせた朝陽も、心の持ちようで目にする景色までこうも変わるものなのだと実感せずにはいられなかった。最後の食事も、いつもと同じ食べ慣れた固い黒パン。

シベリアでの最後の食事だからといって、少しサービスしてくれるような寛容さはなかった。明日も、その翌日も、この暮らしが続くのではないかと思わせるほど、いつもと変わらぬ朝食だった。
食事を済ませた後、春男さんはターニャのもとに向かった。何度も通った道のり、様々な思い出が去来した。自分が捕虜であることの罪悪感を抱きながら、この道をやや早歩きしたことも鮮明に脳裏に浮かんだ。2人で一緒に歩きながら、他愛もない話をしたり、お互いの国のことを教え合ったり、自分たちの未来のことを語り合ったりした。