震災から2回目の夏。お盆の時期を前に被災地では墓の復旧が進まない地域もあります。輪島市でその現実と向き合う住職を取材しました。

金沢市長坂町の大乗寺で無縁仏にお経をあげる市堀玉宗さん。普段は輪島市門前町にある興禅寺で住職を務めていますが、7月15日は、金沢に新盆の手伝いに来ていました。
市堀さんは30年ほど前に大乗寺で修行をしていましたが、新盆の様子は大きく変わったと話します。
市堀さん「様変わりしたというのが正直なところ/お坊さんに声かけいただいてお経をあげるという風習、宗教文化だね私に言わせてみれば。それが廃れてきたのが寂しい」
市堀さんが住職を務める輪島市門前町の興禅寺。2007年の能登半島地震で本堂が全壊しました。檀家などの助けを借りて2年をかけて再建しましたが、去年の地震で家を失った檀家が地域を離れることとなりました。法事や墓参りが日常生活の中にあった門前町。
市堀さん「門前は特に寺を大事にする地域だし、お寺もそうだけど墓も大事にする。先祖を大事にする町、お寺の町。現状を無念に思っている人もたくさんいらっしゃる。でも今は墓参りなどができない。これが現実、今の能登の、門前の、輪島の」
興禅寺から歩いて10分、亀山墓地は総持寺祖院の敷地にあります。約160基ある墓は2024年の地震でその多くが倒壊しました。あの日から1年半以上たった今も。

市堀さん「いつもお盆近くなると草刈りをするが、それもできなくなった」
興禅寺の檀家で門前町に住む酒井郷夫さんも墓が被害に遭った一人です。

酒井さん「見慣れた景色がこんなふうになっているんで、門前だけじゃなくて能登地区全部どこもこんな感じの所ばっかり。風景が変わった」
6月から墓地の復旧に向けた工事が始まっていますが、崩れた山は、重機や車が入れないため、復旧は難航しています。
酒井さん「こんな感じでどうしようもないんで、墓にはブルーシートだけかけている。申し訳ないがブルーシートをかけて、ごめんなさいという感じです。野ざらしにして雨漏りさせるわけにはいかんということで」
輪島市鳳至町で更地になっているのは、市堀さんが長男に住職を譲った永福寺の本堂があった場所です。住宅部分と観音堂のみが被災を免れました。

市堀さん「住まいの方を一部残して、そちらにお参りの空間を作り、幸いに観音堂が残ったので、そちらにご本尊も移して安置してある。こちらでゆっくりしてもらうというか、安置させていただく」
市堀さんが毎年冬に寒行托鉢をしていたのが、永福寺の近くにあった輪島朝市です。隅々まで知る輪島のまち。変わってしまった風景。
市堀さん「火災後の朝市も歩いたが、見る影もなくなってしまった時にそういう思いが強く沸いてきて、何かお役に立てないかと思った。どこか適当な場所を見つけて、永福寺の境内を設けてそこで地元の朝市の方々に、朝市を始めていただければいいなと思い描いている」
墓を失った檀家や朝市の人たちに伝えたい思い。市堀さんは毎月、興禅寺の掲示板に直筆で掲げ続けています。
市堀さん「仏の心こそが復興の柱だと思っていますから、そういうことを合わせて、言葉を発信させてもらっている。これは私自身に対する自問自答でもある」
1人の僧侶の復興への祈りです。