主演・吉沢さんに「なんか言ってくるから反応して」

映画『国宝』の主人公・喜久雄役を演じる吉沢亮さんについて、李監督は「彼でしかやれないと思っていた」と断言します。共演する大垣俊介役の横浜流星さんについても「どんな難関にも乗り越えようとするストイックさ」を評価し、「喜久雄に対しての俊介として、同じように極めていただかないといけない」と考えたそうです。

役者たちは1年半にわたる稽古を重ね、歌舞伎の所作に取り組みました。「彼ら自身も絶対自分たちが歌舞伎役者さんのようにはなれないけど、どうやったら近づけるかという死ぬ気度みたいなものが伝わる」と李監督は語ります。

李監督ならではの演出が光るのは、映画のなかでも印象的な“屋上シーン”。夕方から夜になっていく30分程度の限られた時間のなかで撮り切る必要がありました。

こうしたなか、最後のテイクでは彰子役を演じる森七菜さんに監督がセリフを変えるよう耳打ちし、吉沢亮さんには「振り向いて彼女の顔見て、なんか言ってくるから反応して」と指示しただけだったといいます。このアプローチが映画の中でも特に印象的なシーンを生み出しました。

「1本撮るたびに歯が1本抜ける」

李監督にとって過酷な映画づくりを物語ったのが、「1本映画撮るたびに、歯が1個抜けるんです」という告白でした。「撮影中は歯をグッと噛み締めているので、撮影が終わって作品が出来上がり、数ヶ月経ったらインプラントを入れる羽目になる」と言い、現在4、5本ものインプラントが入っているそうです。

「歯医者さんに言われたのが、プロ野球選手とかゴルフの選手とかがスイングする時にグッと力むあれぐらいの負荷がかかって割れる。そういった物理的な犠牲を払っている」という言葉からは、映画づくりへの並々ならぬ思いが伝わってきます。

映画『国宝』は海外でも上映され、上海やカンヌでも反響を呼びました。「やっぱり皆さん歌舞伎という入り口が非常に間口を広げてくれていると思う」と李監督。「本当に歌舞伎の演出は食い入るように見られていますし、終わった後皆さん拍手していただける。やっぱり『美しい』という言葉が一番聞こえてきます」と海外の反応を語りました。

歌舞伎と映画が融合した、3時間の美の世界。「劇場での没入感を是非味わっていただきたい」と李監督は語っています。