中国の存在感と国際秩序の変化
アメリカがWHOからの脱退をちらつかせ、パンデミック条約への参加も見送る一方で、中国は国際社会における存在感を高めようとしています。中国は今後5年間で総額5億ドル(約700億円以上)を追加で拠出すると表明しており、アメリカに代わって最大の資金拠出国になる見込みです。
今年の年次総会で中国代表団の団長は、「中国は実際の行動によって、WHOと多国間主義を支えます」と演説し、アメリカの一国主義的な姿勢とは対照的な「多国間主義」と「国際協調」を強調しました。これは、アメリカが内向きになるのに反比例して、中国が国際社会でリーダーシップを発揮しようとしている明確なサインと言えます。
今後数十年で国際秩序が大きく変化し、中国が現在のアメリカのような立場になっているとすれば、この2025年前後がそのターニングポイントだったと振り返られるかもしれません。WHOの年次総会は、単なる保健衛生に関する会議にとどまらず、世界のパワーバランスの変化を映し出す鏡となっているのです。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める