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親が育てられない赤ちゃんを匿名でも預かる、熊本市の慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」が5月10日で開設から18年を迎えます。

ただ、この仕組みについては他にも「赤ちゃんポスト」や「ベビーバスケット」などの呼び方があります。

赤ちゃんポストという言葉に抵抗がある人、複数の呼び方があることで認知度が上がらないという課題があるようです。

こうした呼び方が生まれた経緯について調べました。

熊本市の慈恵病院は2007年から、予期せぬ妊娠や経済的困窮などを理由に育てられないという赤ちゃんを、「こうのとりのゆりかご」と名付けた仕組みで受け入れています。

去年5月末までに預けられた子どもは179人に上ります。

この仕組みは元々、海外で始まり、現在は韓国やスイスなど十数か国にあり、「ベビーボックス」の呼び方が一般的です。

「赤ちゃんポスト」という呼称は、ゆりかご開設の前年(2006年)に、あるNPO法人が海外の取り組みを紹介したビデオの中で使ったことが最初とされています。

一方、今年3月、国内の医療機関として2番目に開設した東京の賛育会病院は「ベビーバスケット」と名付けていて、国内であっても呼び方が混在しています。

仕組みにほとんど違いはありません。

  慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」は、西洋の童話にちなんで名付けていて、「ベビーバスケット」とした賛育会病院は「外国語が母語の人にもわかりやすい名前にした」としています。

一方「赤ちゃんポスト」の「ポスト」については、「届けたい人に届く」との意味があるそうです。ただ「ポスト」という呼び方には様々な意見があります。

どの呼び方がいいですか?――
10代の女性2人「赤ちゃんポスト。一番聞きなじみがあるから」
20代の女性3人「相談できる場所だからありがたい存在なのかな。『ポスト』は軽いイメージ。『赤ちゃんポスト』には良いイメージがない。「ゆりかご」と言った方が伝わるし、温かみがある気がする」

「ゆりかご」に預けられ、唯一、実名を明かしている熊本市の大学生・宮津航一さん(21)は、「ポストは手紙や荷物といったモノを扱うだけに、心がざわつく。当事者としては、命を運ぶ、命をつなぐという意味が込められている『ゆりかご』の名前で伝え続けたい」と話しています。

一方、呼び方以前に、そもそも存在を知らないという声も少なくありませんでした。

10代の女性3人「こうのとりのゆりかごって、赤ちゃんを預ける所?じゃない?
慈恵病院じゃない?赤ちゃんポストも」
20代の男性「いや、一つもわからないです」

開設から18年を迎える中、慈恵病院の蓮田院長も、考えが変わりつつあります。

慈恵病院 蓮田健 院長「最近は『赤ちゃんポスト』をあえて使っている。女性たちがそもそも存在を知らない、「ゆりかご」という最後の頼みの綱の存在が知られていないことをここ何年間で痛感したので」

背景には、予期せぬ妊娠に1人で悩み、ゆりかごなどの存在を知らないまま、1人で産んで赤ちゃんを遺棄してしまう事件が全国で相次いでいる現状があり、どんな呼び方であれ、まずは存在を知ってもらうことが大切と考えるからです。

こども家庭庁によりますと、遺棄や虐待によって、生まれてすぐの赤ちゃんが死亡したのは、2003年から去年9月までの約20年間で185人に上ります。

現状を背景に認知度を高めるためにも、蓮田院長は「110番や119番通報のように『困った時はここ』とわかる名前であれば」と話しています。