「一帯一路」からの離脱に動き出したパナマ政府

新興国・途上国に中国が呼びかけているのが巨大経済圏構想「一帯一路」だ。その「一帯一路」構想をめぐっては、パナマのムリノ大統領が2月6日、中国主導の「一帯一路」からの離脱に向けた手続きを正式に開始したと述べた。来年2026年に「一帯一路」の今の協定が期限を迎えるが、更新しないと明言した。

別の情報だが、パナマ政府は、運河の港を運営する香港企業との契約を解除するかどうか検討に入った――アメリカの通信社は、このように報じている。

トランプ大統領の要求に沿うようなパナマの対応に、中国は当然、反発する。中国外務省は、アメリカに抗議した。また、7日のことだが、中国の外務次官補が北京のパナマ大使を呼び、こう忠告した。

「アメリカが中国とパナマの関係を損なって『一帯一路』を弱体化させている。中国は断固反対する。パナマは外部の干渉を排除して、正しい判断をすべきだ」

パナマを足がかりに中米での台湾断交を進める中国

先ほど、「新しいパナマ運河を最初に通ったのは、中国のコンテナ船」と紹介し、それを「象徴的な出来事」と表現したが、中国にとってパナマはもう一つ「象徴的な存在」といえることがある。

2017年6月のこと。パナマはそれまで台湾との間で持っていた国交を断絶し、中国との国交樹立にスイッチした。中米・カリブ海諸国ではその後、台湾との関係断絶が続いた。ドミニカ共和国、エルサルバドル、ニカラグア、ホンジュラス…。いわゆる「断交のドミノ現象」だ。

台湾を孤立に追い込むため、多額の経済支援をテコに、台湾との関係を絶つように迫るのが中国の方法。中米において、パナマはその発端だった。パナマは、太平洋と大西洋をつなぐ海上貿易の要衝・パナマ運河を所有する。中国当局にとっても、パナマは要衝だ。

パナマとの国交を台湾から奪い、パナマ運河の港を香港の企業が運営する。これらのことは、世界にネットワークを広げる中国の勢いを示すようだ。

パナマ運河の最大の利用国はアメリカ。アメリカで扱われるコンテナ輸送全体の4割が通過する。有事の際、港を運営する香港企業が、中国当局の指示で運河を閉鎖すれば当然、アメリカの安全保障に大きな影響が出る。トランプ大統領の圧力によって、パナマは譲歩の姿勢を示しているようだが、中国も黙っていないだろう。関税の報復合戦も含め、米中関係の今後を注視していきたい。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。