課題は「経済」と「安保」

日韓専門家会議

6月下旬、早稲田大学とソウル大学の共催で日韓の安保・経済・科学技術分野に関する専門家会議が都内で開かれた。日韓国交正常化60年に向け、両国が協力して取り組むテーマについて話し合い、提言をまとめるという。

会議では経済面での連携強化についての意見が目立った。印象的だったのは少子高齢化による「労働力」不足という共通課題のため「労働市場を結合する」という案。韓国の専門家が言及した。同様の提言は「日韓新時代共同研究プロジェクト」の2010年の発表でもみられるが、人や情報、資本が両国で自由に移動すべきというのが基本的な考えだ。

働き手の“需要”はあっても、実際に“供給”される職の間にギャップが生じる「ミスマッチ」は各国に存在する。韓国の場合、大学進学率は約70%と日本より高い。しかし卒業後の進路では大企業・公務員志向が強いものの、待遇面で格差のある中小企業は避ける傾向があるとされる。若者の非正規雇用化が進んでいるという報告もある。

韓国の若者には、日本は労働環境の面で安定しているというイメージがある。言語の問題をクリアすれば日本企業への就職は魅力的に映るだろう。政府機関や自治体、大学での日本への就労支援も続いている。韓国側からは「日韓の人材が競争することで賃金も上がるはずだ」という期待も示された。

互いの国で「スタートアップ企業」への出資を拡大させたい、日韓共同で「スタートアップ株式市場」を設立してはどうか、という意見も出た。生産した“モノ”を互いの市場で売るだけではなく“ヒト” “カネ”の往来をより活発にする狙いだろう。

もちろん安全保障もテーマとなった。これには「経済・食料安保」も含まれる。資源、食料が安定して調達できなければ、国民生活と経済活動はダメージを受ける。原材料の供給が不安定になれば、半導体やバッテリーといった重要物資の製造にも影響が出る。韓国側からは戦争や災害に備えた原材料の調達・供給、資源外交でも連携すべきだという提案があった。日本の専門家からは「輸入に頼る小麦の共同購買、備蓄は可能では」という指摘があった。

ロシア・プーチン大統領 北朝鮮訪問 歓迎式典

北朝鮮をめぐっては、日本の研究者から「ロシアと北朝鮮の間の軍事協力に対応するため、日本と韓国がどのように中国を巻き込めるかが重要だ」という問題提起があった。中国はロシアと北朝鮮の接近について表向き静観する立場だが、外交筋は「中国は内心、これを不快に感じている」と明かす。地域を不安定化させる露朝の接近をエスカレートさせないため、日韓が中国にどう働きかけていくか。「日中韓サミット」が終わって間もないが、中国と向き合う上で両国の連携が一層重要になるのは間違いない。

一方、日本側から自衛隊と韓国軍の間で物品や役務を相互に提供する協定の「準備段階」となるような取り組みが必要ではないか、という指摘もあった。韓国の専門家は「国民が受け入れやすい状況を作るべき」と慎重な言いぶりだった。具体的な協力については「捜索・救難訓練を拡大、発展させるのが現実的だ」という声も聞かれた。韓国の複雑な国民感情がそこにはある。

両国の関係を安定させるもの

先に述べたように、日韓両国の国民感情は時の政治の影響を受けやすい。韓国人研究者は、日本の世論の動向について「アメリカやロシア、中国に対しては一定の傾向があるのに、韓国に対しては感情の振れ幅が大きい」と解説していた。また双方とも、政治に関心を持つ層は相手に良好な感情を抱きにくいが、人や文化、言葉に関心を持つ層は相手に好感を持ちやすいということだった。日韓の関係を考える上では政治だけではなく、むしろそれ以外に興味の対象を広げることが安定のカギなのだろう。

実際、両国はそれを続けてきた。音楽やドラマ、アニメといった双方のコンテンツは、ビジネス面だけでなく関係を下支えする基盤となっている。その上に、政治や経済の実利・協力というブロックを積み増して固定する必要がある。難しい問題があっても、両国は折り合いをつけることができる自信を互いに持てるのかを、国交正常化60年という大事な節目に確認したい。