◆反中国活動は「外国勢力が干渉・介入し、導いた」
中国共産党の考え方として、中国本土、それに香港においても、自分たちの考え方と相容れない行動は、「西側の国家、つまり外国勢力が干渉・介入し、導いたからだ」という思いがある。香港での「反中国活動」も、西側が扇動してきた、と考えている。
だから、習近平政権のいう、民主化への意思を持つ香港の人たちが、外国メディアや外国人と接触したり、情報を交換したりすることも「機密を盗み取る行為(=スパイ行為)に該当する」と認定される危険性があるかもしれない。そして、処罰の対象になりかねない。
そうなると、外国メディアがこれまでのように、香港で取材活動を行うことも、この「香港国家安全条例」違反とされ、香港の社会統制は一段と強まる可能性は十分ある。外国のNGOの活動も規制を受けるかもしれない。香港政府トップの李家超(ジョン・リー)行政長官は、香港国家安全条例をつくるにあたって「香港の内外には国家安全上のリスクが存在する」「だからこの条例が必要性なのだ」と強調した。長官は「できるだけ早く、法案可決を目指す」とも宣言している。
このジョン・リー長官は、中国共産党の忠実なイエスマン。警察官僚出身で、香港での反政府デモを封じ込めてきたことで、習近平政権が高い評価を与えてきた。2年前の就任時から、この国家安全条例の制定を公言していた。
◆志を曲げていない人々が獄中に
「香港国家安全条例」に先立ち、制定された「香港国家安全維持法」が2020年に施行されて以降、これまで約300人の香港市民が、この法律に違反したとして、逮捕された。アメリカのワシントンに拠点を置くNGOで、Hong Kong Democracy Council(香港民主委員会)という人権擁護団体がある。このNGOによると、逮捕者を含め、反体制活動などで収監された、香港市民のいわゆる政治犯は1000人を超えている。
力づくで民主派を抑え込む。さらに法律的根拠をもたせる条例をつくる――。おそるべき事態だ。今も収監されている香港市民の中には、香港の日刊紙「アップル・デイリー」の創業者、ジミー・ライ氏もいる。香港の民主派を言論で支えてきた重鎮だ。別の裁判の判決によって、服役してから3年が経過しており、氏はすでに76歳だ。
最も注目される香港国家安全維持法違反の裁判は、昨年12月に始まった。ジミー・ライ氏がオーナーだった「アップル・デイリー」が行った中国当局に批判的な報道について、検察は「これは扇動的な刊行物の発行だ」とみなしている。また、「国際社会は中国政府を制裁すべき」と新聞で訴えたことについては、検察は「これは外国勢力との結託だ」と決めつけている。
この「アップル・デイリー」はすでに2021年6月、それまで26年間の歴史に幕を下ろし、廃刊となっている。
また、冒頭に紹介した周庭さんと並んで、著名な学生リーダーだった黄之鋒(ジョシュア・ウォン)さんも、国安法などで有罪判決を受け、現在は収監中。彼はまだ27歳の若者だ。周庭さんのように海外に逃れる者。香港に残っても口をつぐみ沈黙を強いられる者。そして、過去の民主化要求運動が有罪と断定され、服役する者もいる。
刑に服した者には、自らの行動を罪と認めた者もいる。言葉ではそう表明したが、心の中はどうだろう。認めざるを得なかったのだろう。ロシアで不審な最期をとげたナワリヌイ氏。ロシアだけではない。香港でも、志を曲げていないはずの人々が獄中にいる。私たちはそれを、忘れてはならない。
◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。














