米国と中国は関税率引き上げの応酬の末、互いに100%超の関税を課すことに。米中ともに貿易のデカップリングも辞さないとの姿勢として捉えられるも、経済的な打撃を考えれば前代未聞の関税引き上げはどちらも望まぬ展開だ。ここまでのエスカレートをもたらしたことは、米中間での貿易交渉など話し合いがほとんどできていないことを示唆している。

互いの経済依存は低下しているものの、米国では対中輸入依存、中国では対米輸出依存が依然高く、それらを通じた高関税の影響は無視できない。米国ではインフレ率が2%を上回り、輸入価格上昇は再加速要因となる恐れがある。高インフレはバイデン前政権の支持率低下の主因でもあり警戒が継続される。一方、中国ではデフレ傾向が強まり、内需低迷が深刻だ。対米輸出減少に加え、米国の輸出企業撤退による中国国内での投資低迷が景気を下押しするリスクがある。

経済的な不利益を知りながら、お互いに報復する、いわゆる「囚人のジレンマ」に陥った米中対立。中国は今後の関税の引き上げ競争には付き合わない姿勢を示すなど報復打ち止めの兆しだ。また、米国ベッセント財務長官は超高関税が「持続可能だと思っていない」とし、中国との交渉の可能性を示唆。ただし、相互関税について約70カ国と個別交渉を開始する米国は、中国以外との話し合いを優先する見込み。米中の関税引き上げの応酬は止まっても、引き下げの議論は当面進まない恐れがある。

(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所 調査部 主任研究員 野木森稔)