欧州で防衛強化の優先順位が急激に上がる中、域内の防衛企業は資金調達を巡り、銀行の壁に直面している。欧州の防衛産業の経営陣、政治家、銀行幹部らは、武器製造企業や軍事請負業者に対する迅速な資金提供を促進しようと、規制と内部手続きの早急な見直しを求めている。

ウクライナで利用されている監視用無人機(ドローン)のメーカー、クオンタム・システムズの共同創業者フロリアン・ザイベル氏は「多くの防衛企業は、銀行口座の開設のような単純なことでさえも問題を抱えている。実務レベルでは、銀行のスタッフは『もちろん、この防衛プロジェクトに融資しなくては』と言うが、その後、内部規定に違反しているとして、取引は阻止されてしまう」と実情を語った。

欧州の防衛関連の新興企業からは、よくこうした不満の声が上がる。欧州の主要市場において、銀行のビジネス慣行が政治情勢に合っていないことを浮き彫りにする。

欧州は、軍事・防衛を強化する必要性が急速に高まっている。ウクライナのゼレンスキー大統領は2月末、米ホワイトハウスを訪問した際にトランプ米大統領から公の場で非難された。それ以来、米国はウクライナへの軍事支援を停止した。

これに対し、欧州首脳らはゼレンスキー氏を支援するために結集し、何千億ユーロもの支援を約束している。欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、これを「転換点」と宣言した。

欧州首脳らはゼレンスキー氏を支援するために結集し、何千億ユーロもの支援を約束している

反ESG

急展開に驚かされているのが、欧州の銀行だ。高リスクの顧客を排除し、ESG(環境、社会、ガバナンス)指標に反する業界への融資を推奨しない内部ルールにより、銀行は武器メーカーをリスクとして扱ってきた。

ドイツ銀行幹部のファブリツィオ・カンペッリ氏は、フランクフルトでの最近の会議で、「具体的な措置がいくつか講じられない限り」、欧州は防衛産業の新たな成長の波への資金提供に苦戦するとの見通しを示した。また、防衛産業への融資を可能にするため、持続可能な金融の定義の一部を「簡素化し、調整する」べきだと主張した。

だがこれまでのところ、進展は遅々としているようだ。

新興企業や研究機関などを支援する北大西洋条約機構(NATO)イノベーション基金(NIF)のパートナー、パトリック・シュナイダー=シコルスキ氏は、政治的なムードが銀行に浸透するにはまだ時間がかかるとみている。NIFは最近のリポートで、防衛関連企業は、民間部門から資金調達を試みる際に今なお「大きな障壁」に直面していると指摘した。資産運用会社と銀行の両方が、武器製造業者を「悪徳銘柄」として扱うESG規制を理由に挙げているという。

ミュンスターでPzH2000自走榴弾砲の輸送準備をするドイツ軍兵士

米銀は資金提供

米国では状況が全く異なる。ブルームバーグがまとめたデータによると、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻以来、防衛産業への社債やシンジケートローンで最も多くの資金を提供しているのは、すべて米国の銀行であることがわかった。

ブルームバーグのランキングでは、JPモルガン・チェースがトップに立ち、侵攻開始以来280億ドル(約4兆1140億円)以上を提供していた。バンク・オブ・アメリカ(BofA)、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックス・グループ、モルガン・スタンレーがそれに続く。欧州の銀行で最も順位が高かったのは、BNPパリバの9位だった。

ただ、ドイツ銀行とコメルツ銀行の広報担当者は、このデータは欧州で行われる融資の大部分を反映していないとしている。融資は中小企業に直接割り当てられる傾向があるためだ。また、ドイツのラインメタルのような老舗の防衛関連企業は、ESGルールができる前から銀行との関係を構築しており、融資を受けるのにあまり苦労はしていない。

 

だが、中小企業は苦境が続いている。

対ドローン技術を開発するドイツのタイタン・テクノロジーズの共同創設者兼CEOのバラージュ・ナジ氏は、同社が「銀行口座を開設するだけでも1年以上かかった」と明かす。同社はバイエルン州から助成金を確保していたにもかかわらず、追い返されていた。ナジ氏によると、ドイツ銀行に口座開設できたのは、24年末のことだ。

ドイツ銀の広報担当者は、タイタンの件についてコメントを控えた。ドイツ銀行協会(BdB)の広報担当者は、防衛産業に対する銀行融資が不足しているという認識はないとしている。

変化の兆し

ドイツの主要政治家らは、銀行はもっと努力する必要があると明言している。クキース財務相は、銀行にESG基準を引き下げてでも、防衛企業への支援を増すべきだと述べた。

クキース財務相は、銀行に対し防衛企業の支援強化を提案している

欧州投資銀行(EIB)は現在、軍事プロジェクトへの融資余地を広げるために、責任範囲の拡大を検討している。また、ドイツの政府系開発銀行の復興金融公庫(KfW)は、防衛支出の増額を巡り主要な役割を果たすことになる見通しだ。

KfWはブルームバーグの問い合わせに対し、電子メールで「防衛関連企業は、KfWの一般プログラムによる融資を申請できる。連邦政府はKfWを通じ、いつでも防衛関連企業に投資できる」と回答した。

クオンタム・システムズのザイベル氏も、金融業界に変化の兆しが表れ始めていると語る。同氏は最近、ミュンヘンを拠点とする自爆型無人機製造の新興企業スターク・ディフェンスを設立し、すぐにベンチャーキャピタルの支援を取り付けることができたという。

ザイベル氏は、最近まで「コメルツ銀行のような数行しか取引に応じなかった」が、他の銀行も「防衛関連の融資に前向きになり始めている」と話した。

原題:Bankers Race to Catch Up With EU Defense Goals in Stunning Reset(抜粋)

--取材協力:Laura Alviz、Arne Delfs、Amy Thomson.

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