米国では、トランプ大統領が就任初日に「国家エネルギー緊急事態」を宣言し、原油等の掘削を促進する方針を表明した。政権の中枢を担うベッセント財務長官も、原油を日量300万バレル増産する方針を掲げるなど、第1次政権時並みの供給拡大を目指す構えだ。

もっとも、実際の原油増産ペースは第1次政権時に比べて緩やかにとどまる見通し。この背景として、以下の3点が指摘可能。
第1に、操業コストの上昇。コロナ禍を機に物流網の混乱や人手不足の深刻化が生じたことで、原油生産に用いる機械の価格や人件費が高騰した。こうしたコストの上昇を背景に、石油企業が大幅な増産を行うために必要な原油価格の水準は80ドル台と、第1次政権時から切り上がり。

第2に、増産余力の低下。ここ数年の米国の原油生産をけん引してきたパーミアン地区では、実質的な在庫とみなされるDUC(掘削済みだが仕上げが済んでいない油井)が減少している。石油企業がDUCに仕上げ工程を施すことで、短期的に生産量を増加させる余地は縮小。

第3に、設備投資の減少。ダラス連銀によると、中小の石油企業は設備投資に積極的である一方、生産シェア全体の8割以上を占める大手の石油企業は設備投資に消極的だ。大手企業は気候変動対応に向けた要請を投資家から受けやすいことや、今後政権交代が生じる不確実性が高いことが、中長期的な増産投資を慎重化させている可能性がある。

(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所 調査部 研究員 栂野裕貴)