5年前、海外に赴任していた息子を過労自殺で亡くした富山市の女性がきょう、息子が勤めていた企業と記者会見を開きました。遺族と過労死を起こした企業が共同会見を開くのは全国で初めてで、女性の強い要望で完成した海外派遣者の命を守るためのマニュアルが公開されました。

毛田千代丸キャスター
「記者会見の会場となる大阪弁護士会館です。遺族側の弁護団が会場に入ります。記者会見で何を語るのでしょうか」

富山市に住む上田直美さん。息子の過労自殺をきっかけに、海外に派遣されたすべての人が安心して働ける社会の実現を目指して活動してきました。

過労自殺で息子を亡くした 上田直美さん
「本日、共同で策定したマニュアルを合同記者会見という形で発表できたことを息子にも報告したいと思っています」

2021年4月、タイに赴任していた上田さんの息子、優貴さん(27)は、高さ約30メートルのごみ焼却発電プラントから飛び降り、初めての海外勤務で自ら命を絶ちました。

上田さんは過重労働が原因だとして、大阪南労働基準監督署に労災を申請。2024年3月、精神疾患発症による自殺として労災が認められました。

優貴さんが勤めていたのは大阪市に本社がある日立造船、現在のカナデビアです。

労災認定を受け、上田さんとカナデビアは補償や再発防止について協議を開始。

2024年12月からは上田さんの強い要望で、海外派遣者の命を守るためのマニュアル作成を進め、きょう、双方の弁護士同席のもと完成報告の共同記者会見が開かれました。

カナデビア土肥太郎専務
「上田優貴さんとご遺族に深く感謝の意を表するとともに、あらためておわびとお悔やみを申し上げたいと思っております。本マニュアルの社内での確実な周知徹底と実効性ある運用を通しまして、再発防止に全力で取り組んでまいりたい」

上田さんの弁護団によりますと、遺族と過労死を起こした企業が共同会見を開くのは全国で前例がないということです。

過労自殺で息子を亡くした 上田直美さん
「このマニュアルは対立の中から生まれたものではありません。企業と当事者家族が同じ方向を向き、約1年半にわたって建設的な話し合いを経て形になったものです」

マニュアルは、出張期間が1か月以上の海外派遣者を対象とし、「出発前」「現地着任後」「帰国後」の3段階に分かれています。

「出発前」は、カウンセラーによる相談窓口を設置することや「事前に研修」を受けさせることが盛り込まれたほか、初回の海外派遣は研修の一環とし、原則として「専門業務のみ」を行わせる項目が設けられました。

これは、電気設計を担当していた優貴さんが、事前研修なく、専門外の業務であるプラントの試運転に従事させられたことに起因しています。

マニュアル作成の上で、特に上田さんが重視したのが「心理的安全性」の構築です。

過労自殺で息子を亡くした 上田直美さん
「心理的安全性というものを構築してほしい。困った時にすぐ相談できるようにすぐに活用できる体制を整えてほしい」

「現地着任後」では、上田さんが強く要望していた宿舎での報告書の作成や移動時間中の打ち合わせなども、労働時間として扱うことが明記されました。

カナデビアは、これまでの内規にはない労働時間に踏み込んだ内容だとしています。

遺族弁護団・岩城穣弁護士
「資料確認や業務の打ち合わせ、連絡対応、その他会社の指示に基づく対応を行った時間は労働時間として扱う。ここはかなり先進的だと思っています」

亡くなる直前1か月の残業時間は149時間にのぼった優貴さん。

労働時間の制限については「日本国内の労働時間規制を遵守する」と記されていて、カナデビアは労働基準法の特別条項として定めた月95時間を上限に残業を認めていますが、カナデビア人的資本・ウェルビーイング推進部山口貴弘部長は「45時間を超えない努力をしていく」と述べました。

カナデビアは今後、海外派遣者からの意見を踏まえて、マニュアルを改善していくとしています。

過労自殺で息子を亡くした 上田直美さん
「一企業の枠をこえて、海外で働く方々を守る新たなスタンダードとして社会に広がっていくことを心から願っています。一人でも多くの方の命と未来を守ることにつながることを願っております」

5月24日に、カナデビアの社長が富山市の上田さんの自宅を訪れて謝罪しました。海外派遣者の過労死対策に取り組む海外労働連絡会の共同代表でもある上田さんは、今回のマニュアルを国が海外派遣者を守るためのガイドラインのたたき台にしたいと話していて、今後、国に働きかけをしていきたいとしています。