【取材後記】事件を未然に防ぐことはできなかったのか

佐藤被告と被害女性は、2024年9月に出会った。間もなくして佐藤被告は被害女性から金を借りるようになり、その額は100万円以上に上った。返済は滞っていた、というより返済するあてなどなかった。そして、2025年3月に被害女性の妊娠がわかると話し合いは平行線をたどりトラブルへと発展する。言うまでもなく、お腹の子に何ら責任はない。産まれ幸せになる権利があるはずだった。

佐藤蓮真被告(22)

妊娠や借金に関する話し合いは当事者同士で進められ、第三者が仲裁に入った形跡はなかった。もし誰かが間に入っていれば…、という思いを抱かずにはいられなかった。

被害女性の親友も「妊娠や佐藤被告との関係については聞いていなかった」と話している。この親友は、事件の1週間前、被害女性と会う予定だったが、体調不良により叶わなかったという。「あのとき会えていれば」と今も悔やむ。

仙台拘置支所で私たちの目の前にあらわれた佐藤被告はいかにもおとなしそうな青年で誠実そうという印象さえ抱いた。「真実を話す」と佐藤被告は語った。だが、実際に裁判が始まると言動が二転三転する様子が見られた。そもそも、妊娠をしている女性に刃を向けるなど、誠実さのかけらもない残忍極まりない行為だ。母親は佐藤被告について「正義感が強い」と語る一方「うそをつくことがある」と話し、そうした被告について弁護側は未熟さがあるとも表現した。

だが、裁判では、海岸で犯行に及ぶと決めていたうえ、犯行後は、被害女性のバッグを持ち去り証拠隠滅を図ったことなどが明らかにされた。さらに犯行直後に友人から5万円を借りてアリバイ作りをするなど、その計画性はおよそ未熟とはかけ離れているように思えた。闇夜の海岸に一緒に向かうため、佐藤被告は被害女性を誘い出した。その際、女性は「初めて一緒に外出るね」とうれしそうだったという。いったいどんな言葉をかけて誘い出したのか。

2025年5月に検察に身柄を送られる際、佐藤被告は報道陣のカメラに向かって手でバツ印をつくってみせた。当初は殺人容疑について黙秘していたが、その理由について、面会した際「認めなくない思いだった」などと語っている。「誠心誠意」と話していたが、裁判では「本当に真実を語っているのか」と疑問を抱く場面が多々あった。

判決では犯行を断罪する一方、予期せぬ妊娠によって心理的に追い込まれたなどと佐藤被告の心情にも言及し、懲役21年を言い渡した。結果的に懲役20年が相当という弁護側の主張に近い量刑となった。判決では「被告には帰りを待つ母親がいる」と述べていた。だが、あの日1人で留守番をまかされた被害女性の息子さんのもとにお母さんはもう帰ってくることはできない。奪われた命は二度と元には戻らない。極刑を望む遺族の思いはどの程度量刑に反映されたのだろうか。検察側がこの判決をどのように判断し、控訴するのかどうかが今後の焦点となる。
<第1回「自慢の息子がなぜ」><第2回「犯行当日の夜」>
<第3回「覚えていない繰り返す」><第4回「裁判官の問いかけ」>