無罪判決「1審での確定」望む

ーこの9年に意味はあったのでしょうか。
9年は長かった。長すぎたと思います。あえて言わせていただければ、無駄だったと思います。今回始まった再審公判で、検察官は再び有罪立証をしています。9年前の決定後すぐ再審公判に移っていたとしても、検察官は、いまと同じ立証ができたはず。だからこそ、無駄だったと思います。

2020年、再審開始決定が高裁で取り消された時には非常に驚くと同時に、袴田さんとひで子さんに申し訳なく思いました。決定を出した裁判長として、高裁の裁判官を説得できなかった自分に悔しさを感じ続けてきました。しかし最終的に再審開始になるべき事案であることは、一度も疑ったことはありません。

もともと、袴田さんの死刑を決めたのは「5点の衣類」です。第2次再審請求審では裁判官が勧告したことで、検察官が新たに約600点の証拠を開示しました。新旧の証拠を総合的に評価すると、袴田さんの犯人性を支える証拠は、「5点の衣類」以外にはあまりないんですよね。

その上「5点の衣類」については、再審開始決定で言及したように、捜査機関のねつ造の可能性などさまざまな疑問がある。新たに開示された証拠によって、その疑問がさらに深まったということになれば、袴田さんが犯人だという認定自体は相当脆弱になってきます。私個人の考えですが、通常であれば、それらの証拠関係を基にすれば、裁判官が袴田さんを有罪とすることは考えにくいと思っていました。

ーすでに2回、再審公判が開かれました。経過をどうみていますか。
検察官が袴田さんの自白調書を証拠から排除したことは、再審公判の争点が一つ減ったという点で、検察官として賢明な選択だったと思います。自白調書はまったく信用できないという結論になるであろうことを、検察官が見込んだから排除したのだと思います。

もちろん、公判では無罪判決が出るものと思っています。その上で、1審(地裁)判決が確定してほしい。もうこれ以上、長引かせるのは本当にやめてほしい。そのためには、判決がしっかりしたものでなければなりません。そうでなければ、検察官は控訴するでしょう。

裁判官が検察官に有罪立証させることにしたのは、控訴が念頭にあってのことではないでしょうか。要するに、検察官もこれだけ主張、立証をしたでしょうと。そうであるならば裁判官には、1審判決で確定できるような、実のある判断をしてもらいたい。それでも控訴するなら、検察官は国民的な非難を浴びることになるでしょう。

ただし、有罪立証によって審理がいたずらに長引くことのないよう、きちんと、審理の促進をしてもらいたいとも率直に思っています。袴田さんや姉ひで子さんの年齢を考えれば、なおさらです。