まさかの「肉アレルギー」に

これらは、とても危険で気をつけないといけない病気で、マダニに刺され、発熱や発疹があったら、早めに病院を受診する必要がありますが、その感染の「頻度」は、実は、それほど高くはありません。静岡県内では、日本紅斑熱は2000年から2023年までの24年間で、53の感染例があり、うち死者が7人。SFTSは、静岡県内では3年前に初めて見つかって以来、13の感染例があって、亡くなった方はいません。それぞれの病気が年間10例以下にとどまるのは、人を刺したマダニが病原ウイルスや菌を持っている確率がさほど高くないからです。

むしろ、マダニに刺されたことによる健康被害で、より多くの人に起きているのではないかと近年考えられ始めたのが「肉アレルギー」です。マダニに刺されると、「肉アレルギー」になる、というのは、一体どういうことなのでしょうか。
 
地球上の多くの生物が持っている糖の一種「α‐Gal」(アルファギャル)。これが多くのマダニの唾液や消化管に存在します。ところが、人間はこのα‐Galを持っていません。マダニに刺されて、体内に存在しないα‐Galが入ってくると、人はこれを敵と感知し、抗体を作ると考えられています。

一方で、α‐Galは、哺乳類のほとんどが持っている物質です。持っていないのは、人間や一部のサルだけ。マダニにかまれて、α‐Gal抗体を持った人間が、α‐Gal成分を含む牛や豚、羊、さらには、鹿や馬などの肉を食べると「マダニを撃退する」ための免疫反応が出て、その結果、自分の体をやっつけてしまい、じんましんや下痢、腹痛、ひどい場合には、呼吸困難に陥ってしまいます。

ポイントは「哺乳類」というところで、同じタンパク源でも、鶏や魚はα‐Galを持っていないので、基本的にはこのアレルギーにはなりません(ただし、カレイの卵でアレルギーが出ることが知られています)。一方、鮮魚店で扱っているものでも鯨やイルカは哺乳類ですから、α‐Galアレルギーになりうるのです。