「娘が助けを求めていても助けることすらできない」親としての無力感

加藤さんの心配はどんどん大きくなり、この時期が一番苦しかったと語りました。

(加藤裕司さん)
「そのことは、われわれ夫婦は知らないわけで、私は毎日のように仕事で高松に行くわけですけど、心配がどんどん、どんどん大きくなってきて、『あの男は誰なんだろう?』『娘は無事に生きてるんだろうか?』『大丈夫なんだろうか?』って考えるとごはんが喉を通らないんですよね」

「寝ようと思っても、寝付けない。寝させてもらってないかもしれないと思うと、寝られない。まったく寝てないわけでも、食べてないわけでもないと思うんですけど…そんな日を過ごしていました」

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「一番苦しかったのは、この時期かなと思います。自分の無力さを一番感じる時期なんですよね。何もできないわけです。情報もなければ、娘が助けを求めていても助けることすらできない。親としての役割が果たせていないという思いがものすごく強くなります」

「おそらく、多くの被害者の方も同じような思いを持たれたのでは、と思うんですけど。そういう日を過ごしていました」

警察が捜索をしている間、岡山西警察署の人が、一日に3度くらい入れ代わり立ち代わり訪ねてきていたようです。

「『何をそんなに心配してくれているんだろうな』というぐらい、わたしたち夫婦は何の事実も知りませんでしたので、すごく声をかけてくれるんだなと思っていました」

「ひょっとしたら、誘拐事件になるかもしれないというので、盗聴マイクを仕掛けて、それに何か録音されていないかとか、体調が悪くてごはんとか、買い物行けないんだったら、代わりに行きましょうかと声をかけていただきながら、過ごしておりました」

『娘が殺されているんじゃないか』という思いは1ミリもなかった

警察が会社の倉庫を調べていくと、一番奥のロッカーからルミノール反応が・・・。

(加藤裕司さん)
「警察は、当然のことながら、もうここ【画像⑲】全部調べるわけですよね。一応、綺麗に血はふき取っているわけですよね」

「パッと見た限りでは何もないんだけども、一番奥のロッカーから“ルミノール反応”が出たということで、この血痕は誰の血なんだといいうことで、すぐに我が家に飛んで来られました」

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「わたしたち夫婦の口の中の粘膜をとって、DNA鑑定をするということです。驚くほど早い。1日か2日だったと思うんですけど、『お嬢さんの血に間違いがない』と言われました」

「それを聞くと、もう動転しますよね。娘は知らない男に連れ回され、しかもけがをしている。もうどんどん、どんどん不安が大きくなっていくんですけども・・・」

約1週間後、岡山西警察署から午後8時ごろに「これからお邪魔していいか?」と電話がありました。

「その時、われわれ夫婦は『何か新しい事実が分かったのかな』と期待が半分ありました。だけど、もう半分は、ちょっと説明ができない不安みたいなのがありました」

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「多くの被害者の家族というのは、たぶん同じ思いだと思うんですけど、よくテレビドラマで殺人事件があったりしますよね。テレビを観ている我々は、『あ、これ殺されてるよな』って勝手に思ったりしてます」

「ところが、自分のことになると『娘が殺されているんじゃないか』などの思いは1ミリもありません。『生きてる』ということしか思ってないんです」

「もう『不自由になってても、生きてるんだ』と。そういう思いしかないんです。だから殺されてるという思いは1ミリもないので、そういう意味での不安はほぼありませんでした」