55歳で芸術家としてデビューした男性がいます。価値がなかったものから価値あるものを生み出したい、オールドルーキーの挑戦です。
ぎょろっとした目つきでこちらを見ているような鯛に、工具を削って作り上げたナイフ。

作品を手掛けているのは田仲徹也(たなか てつや)さん56歳です。
田仲徹也さん(56)「こちらが私の家なんですけど、ギャラリー兼倉庫になっています」

去年6月、芸術家として本格的にモノづくりを始めた田仲さん、以前は自衛官でした。
熊本や北海道で36年間勤務し去年、定年退職。
55歳での芸術家デビューでした。

「おはようございます。よろしくお願いします」
田仲さんは退職後はモノづくりに専念すると決めていました。

「幼いころからモノづくりが好きだったんで、モノづくりが仕事になるということにすごくわくわくしていて、だから朝も早くて、究極の遊びですよね」
向かった先は益城町にある工房。唯一の喋り相手ネコのぶーちゃんが出迎えます。

この日作るのは…
「鳥の羽ですね。フェザーを作っていきます」
材料は田仲さんの故郷、鹿児島県・沖永良部島の夜光貝(やこうがい)です。

「石灰質の層があるんですけど、それを削っていくと真珠層が出てきて、そこを上手く使って羽にしていきます」
ぶーちゃんも田仲さんの作業が気になる様子。
「こら!」

形が決まり細かい作業に移ると表情は一変。1ミリほどの薄い層を何度も削り、表面を磨きます。
「これが磨かれて色がついてくると変身しますよね。それが楽しみです」
削り続けることおよそ2時間。真珠層が輝きを見せ始めました。
「陽の光を当てるとまた違った感じになります」

最後は切れ込みを入れ羽らしさを表現。元々捨てられるものだった貝殻が輝く羽に生まれ変わりました。
「捨てられるものを再生するということがすごく楽しいです。無から有を作る作業が私の生きがいです」

田仲さんが手がける作品たちは今、徐々に注目され始めています。
客「全部欲しいです」「夜光貝は綺麗ですよね。欲しくなる」

この日、田仲さんは福岡で開かれた販売会に参加しました。
田仲さん「作れるものは何でも作っています」
客「こういうの好きですね」

70店舗以上が並ぶ中田仲さんの店は盛況のように見えますが…
「いや~、きょうはどっちかというと(手ごたえ)ないですね。どう売りに持っていけるかですよね」
接客が苦手な元自衛官田仲さん。簡単には買ってもらえません。

「四苦八苦、口下手な言葉で喋りながら売るっていうのは難しい」
接客がうまくいかなくても買ってもらえるような魅力ある作品を。田仲さんは次の作品に取り掛かりました。
「流木アートを作っているんですけど、その流木を拾いにきました」

今回の作品のテーマは、獲物を狙うワシ。
「ワシのくちばしを作ってきて、これに合う流木を見ながら」
イメージは羽を広げた姿。それにあう流木を求めひたすら海岸を歩きます。

来年3月、東京での販売会に出品するためこれから数か月、作品に向き合うつもりです。
田仲徹也さん「人が作らないものを、世に出回っていないもの、形にこだわってずっと作っていきたいと思います」
