いま、感染症の拡大防止などに役立つことが期待される新たな「スタンプ型ワクチン接種器」の開発がアメリカで進んでいます。

シートに小さな突起がいくつもついている形状で、使い方は「肌に押し付けるだけ」とシンプルなもの。
従来の注射器に比べ、使用する際の専門的な知識は必要なく「接種時に感じる痛みはほぼない」ということが一番の特徴です。

その「ワクチン接種器」に欠かせないのが「シルク」を”液体状に加工”したもの。そしてその材料はなんと、熊本県山鹿産のシルクです。
Vaxess Technologies社 マイケル・シュレイダーCEO「我々は『山鹿シルク』を用いて、ワクチンをこれまでの注射器から小さなパッチ式なものに変えていきます」

実用化に向け最も重視されたのが、体内に影響を及ぼさない安全性。
では山鹿のシルクはどのように作られているのでしょうか?
そこには独自の生産技術がありました。
独自の生産体制で大幅な品質向上へ
熊本県山鹿市にある「あつまる山鹿シルク」。
ここでは国内生産量の1割にあたる、年間およそ10トンのシルクを生産しています。

かつての養蚕業は養蚕農家が個別に生産するスタイルでしたが、社長の島田裕太さんは自社の体制についてこう語ります。
あつまる山鹿シルク 島田裕太 社長「桑の加工から糸の生産まで、一貫生産の施設は多分ここにしかないです」

カイコのエサになる桑の葉は、標高およそ600メートルの山に点在する自社の桑畑で栽培しています。人里離れたこの場所で育てるのには、理由がありました。

あつまる山鹿シルク 天空桑畑ブロック長 西田博之さん「周囲に農地が無いので実質的にはまったく農薬の影響を受けない」
こうして丁寧に育てられた桑の葉の収穫時期は5月ごろからの約半年間。収穫し、工場で粉末状に加工します。

西田さん「(桑の葉を)粉末としてストックして、通年で飼育できるというのが他にないシステムになっています」
一般的に養蚕業は、桑の葉が収穫できる時期限定の「季節産業」と言っても過言ではありませんでした。
しかし「あつまる山鹿シルク」では桑の葉を粉末状にし、カイコの餌となる人工飼料を開発。

その結果、年間で3回程しかとれなかった繭がここでは約24回とれるように。
さらに養蚕環境の管理も徹底しています。
島田社長「この先は『クリーンルーム』。クリーン服を着てエアシャワーを浴びて消毒をして中に入る部屋になっています」

「クリーンルーム」でカイコを育てマユを生産します。
ちょっとした環境の変化に弱く、ウイルス性の病気で全滅するおそれもあるカイコ。しかし、ここでは外部から隔離され、常に無菌状態に保たれているため、有害な病原菌などが入り込むことはありません。

これら一連の「周年無菌養蚕システム」と呼ばれる独自の生産体制は「生産量の安定」と「大幅な品質向上」をもたらしました。
この「あつまる山鹿シルク」に注目したのが、医療業界でした。
