それでも「第九」が人々の心を打つ理由

そんな中でも、「第九」が飽きられることなく日本で定着しているのはなぜでしょうか。それは、プロからアマチュアまで誰もが参加できる機会があり、年末の風物詩として文化に溶け込んでいるからに他なりません。そして何より、その根底にあるメッセージに多くの人が共感しているからでしょう。

今年も世界では戦争が続き、国内でも自然災害や物価高など、心が痛むニュースが絶えませんでした。ベートーヴェンが第九を作曲したとき、彼はすでに聴力のすべてを失っていました。絶望の淵にあってもシラーの詩に感激し、あの大曲を書き上げたのです。

200年近く経っても色褪せない「歓喜」の主題を胸に、明るい新年を迎えたいものです。

◎山本修司

1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。