「台湾と日本の関係は史上最も友好的」
それから半世紀が経過したが、日本と台湾の関係は極めて良好だ。断交50年当日の9月29日、台湾の外務省は記者会見で「台湾と日本は自由、民主、人権、法治など基本的価値観を共有する。互いを心から愛し、密接に交流を続けている」と表現した。また、蔡英文総統はこの夏、「台湾と日本の関係は史上最も友好的」と謳い上げた。
その要因は?主に3つあると考える。まず、台湾自身の努力。着実に民主化の歩みを進め、言論や報道の自由を実現、自由選挙は政権交代も可能なものに定着した。今やアジアにおいて台湾は「民主主義の優等生」。日本と「価値観を共有」できるようになった。
2番目は日本の先人たちの努力。統治した時代、国策とは別のところで、インフラ整備、保健衛生の向上、産業振興のために、努力した名もない日本人がたくさんいた。その遺産が今も生きている。
それら土壌に、さきほど紹介したように、断交時、双方の水面下での約束、つまり「民間で交流を維持しよう」という約束が生きた。そしてこの半世紀で、着実に広がってきた。また、日台双方で「反中」という意識が広がり、その反動によって「親台湾」「親日本」が根付いた側面もある。
2011年の東日本大震災のとき、台湾は日本へ国・地域別では最大規模となる200億円を超える義援金を被災地に贈った。これは政府主導ではなく、台湾市民一人一人が持ち寄ったものだ。また、新型コロナウイルス感染が広がると、台湾は日本へマスクを贈り、日本は台湾へワクチンを提供する相互支援につながった。
コロナ禍前の2019年、台湾からは約490万人が日本を訪れた。訪日旅行者総数では中韓に次ぐ3位だが、人口比でいうと、約2300万人の台湾住民のほぼ5人に1人だ。台湾観光客がそう遠からず、日本へ戻ってくる。
日本人がやるべきことは少なくない
日本政府の今後の役割は何だろうか?たとえば、台湾は世界保健機関(WHO)総会への出席が、中国などの反対によって認められないまま。日本政府は台湾が望むオブザーバー参加への支持を表明してきたが、健康は何人(なにびと)も享受できるはず。理不尽には、より大きな声で中国に、世界に訴えていいと思う。
また、厳しい日本の周辺環境を見渡すと、台湾の存在は貴重だ。「台湾有事」への関心が高まっている。台湾統一を目指す中国がこの地域で軍事行動を活発化する中、安全保障分野でアメリカ、台湾、それに日本も連携する。そういう意味で、国際社会において、台湾への関心、台湾の存在感は高まっているようにも思える。
日本は台湾を独立国家として認めていないのに、台湾では、多くの人が半世紀も統治した日本に親しみを抱いてくれる。民主化という台湾自身の努力、また、統治時代の日本の先人たちの努力が今日の日台関係の土壌を培ってきた。
一部の台湾人の言葉を借りれば、かつて「日本は台湾を捨てた」が、今を生きる日本人は、現状に満足するだけではなく、やるべきことは少なくないと思う。それは、この地域で仲間を増やすため、という計算だけではなく、台湾が歩んで来た近現代史を見つめることで、我々が今後、進むべき道も見えてくるのではないだろうか。
飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。







