長崎市沖に浮かぶ端島、通称「軍艦島」。その特異なシルエットから、戦時中にアメリカ軍の潜水艦が“本物の軍艦”と誤認し、魚雷を発射したという「逸話」が語り継がれてきました。脚色とも言われてきたこの話の真相を探るべく、実際の映像と史料をもとに取材を開始。狙われたのは軍艦島だけではなかった!第4回ではアメリカ軍潜水艦による日本近海での通商破壊作戦についてです。

浮上して攻撃態勢をとる米潜水艦
日本近海での米潜水艦の商船狩り
いろいろと探してようやく見つけた「軍艦島と魚雷の映像」だが、この時の出来事そのものは知る人ぞ知る話だ。概要はネットにも載っている。

発生日は1945年6月11日。魚雷を撃った潜水艦はアメリカ海軍のティランテ(TiranteSS420)。
今回、米国国立公文書館にある太平洋戦争中のアメリカ潜水艦の映像を探す作業で、はからずも終戦間際の日本近海におけるアメリカ潜水艦の”商船狩り”の一端を知ることになった。

日本地図周辺に潜水艦のマークをプロットした図がある。大戦末期、日本の船を攻撃するために配置されたアメリカ潜水艦の位置図と思われる。
民間船がターゲット
アメリカは第二次世界大戦の大西洋での戦いでドイツのUボートによる通商破壊に悩まされた。その教訓が大戦末期の対日戦で生かされたとみられている。

通商破壊ではターゲットは軍艦というよりむしろ民間船。大型船だけでなく米など食糧を輸送していたと思われる木造ジャンク船も狙われた。

入手した動画では貨物船への魚雷攻撃で吹き上がる水柱だけでなく、浮上した潜水艦に砲撃される木造船や撃沈されて潜水艦に収容(身柄拘束)される日本人乗組員の姿も収められていた。ほぼ無防備の商船への容赦ない攻撃には目をそむけたくなるようなシーンも多かった。

国民の戦意を喪失させる「戦略攻撃」。一般的には都市部への空襲のイメージが強いが、洋上でも食料や燃料を狙った戦略作戦が活発に展開されていた。潜水艦ティランテもその作戦の一環で九州西方、長崎周辺でのパトロール活動を行っていたのだ。

魚雷攻撃の映像の流れから
・「軍艦島を本物の軍艦と見間違えて魚雷を撃ち込んだ」のではなく
・「石炭運搬船を見つけて魚雷発射ポイントまで移動し船に魚雷を撃ち込んだ」ことがおおよそ判明したのだが、その時期、
・「アメリカの潜水艦が日本の商船を狙って日本近海で活発に活動していた」ことも映像からもほぼ裏付けられた。
さらに、軍艦島での米潜水艦ティランテの魚雷攻撃の作戦行動記録も残されていた。そこには軍艦島を攻撃した側からの「魚雷攻撃」と「浮上して逃走」する行動までの全容が記されていた。次回は詳細に記録されたティランテの作戦行動記録を読み解きます。