2人だけの時間も過ごせるように、わたしは食事の途中で退席しました。店の外は雪景色でしたが、わたしの心はあたたかく、少し沸き立っていて、「羅希ちゃんがこの絵本を読む瞬間にも立ち会えたらいいな」と考えていました。

年を越すことなく…

2021年12月27日。次の取材はいよいよ年明けの出産だなと思いながら、わたしは年末の休暇を友人とカフェで過ごしていました。

「年が明けたら、安産祈願の初詣に行くのはどうかな?」「生まれた瞬間の撮影も病院に頼まなくちゃ……!」幸せな取材計画に、心が躍るような思いでした。

そのとき携帯電話が光りました。ちかさんからのメッセージでした。

「こんにちは。今日の健診で赤ちゃんの心臓が止まってました。急遽ですが、今日から入院します」

心臓が止まっていても、まだ動く可能性はあるのか、詳しく検査をしたら、動いていたという可能性もあるのか…突然の知らせに、息が詰まり、店の中のコーヒーとタバコの匂いで急にむせ返るように感じました。


すぐに店を出て電話をかけると、ちかさんは落ち着いた様子で、「これからきみちゃんに付き添って病院に泊まる」「きみちゃんは大丈夫です」などと伝えてくれました。

赤ちゃんは、亡くなったということ…?

はっきり聞けないまま、わたしは電話を切りました。妊娠・出産は、命を宿した本人も、赤ちゃんも命懸けだということを忘れてしまっていた自分に、気が付きました。


翌日、きみちゃんはちかさんが立ち会う中で、羅希ちゃんを死産しました。羅希ちゃんの産声は、誰も聞くことができませんでした。

きみちゃんが送ってくれた、ちかさんと羅希ちゃんの写真

出産してすぐ、きみちゃんは、ちかさんとわたしとのグループメッセージで、羅希ちゃんを抱っこする2人の写真を8枚共有してくれました。白い産着を身につけ、ピンクの毛布に包まれた羅希ちゃんは、どの写真でも同じ顔をしていたけれど、すやすやと寝息が聞こえてきそうな安らかな表情でした。

担当の医師によると、「原因は不明」だといいます。「死産は1パーセントほどの確率で起こり、決して珍しいことではない」「原因がわからないことも多い」と話していました。

羅希ちゃんと過ごす、親子3人の6日間

2人の心情を察して、わたしは連絡を控えていました。しかし2日後、ちかさんが連絡をくれました。「こんにちは。もし嫌ではなかったら羅希の顔を見に家に来ますか」

思いがけないメッセージに、胸が詰まりました。悲しみの中でわたしに連絡をくれたこと、大切な2人の赤ちゃんに会わせてくれること。本当に頭が下がる思いでした。

12月31日、大みそか。JRに乗って2人の家に行きました。玄関のベルを鳴らすと、2人は思いのほか優しい笑顔で迎え入れてくれました。

リビングの隣の部屋に、みどりのパーカーを着た羅希ちゃんがいました。

羅希ちゃんのためにと2人が少しずつ買いそろえてきた、たくさんの絵本やぬいぐるみに囲まれていました。

小さい、小さい手。ちかさんが指を入れても、その指をつかむ力は、羅希ちゃんにはありません。