12月8日は、真珠湾攻撃によって太平洋戦争が始まってから、ちょうど81年を迎えます。
 同じ日、北大で身に覚えのないスパイ容疑をかけられ、逮捕された事件があり、その中に1人の大学生がいました。
 今、この事件に向き合う意味を現役の学生たちが考えます。

 北海道大学には、学業で優秀な成績をおさめた学生を称える表彰が3つあります。
 1つが、ノーベル賞を受賞した鈴木章名誉教授の名を冠したもの。
 残りの2つの賞に名を刻むのは、「宮澤」と「レーン」です。
 第二外国語の成績が優秀だった学生に贈られる「宮澤記念賞」。英語の成績が優秀だった学生に贈られる「レーン記念賞」。法学部2年の荒木裕介さんは、中国語の成績が認められ、「宮澤記念賞」を受賞しました。

宮澤記念賞受賞 荒木裕介さん(2年)
「この事件について知らなかったのですが、この賞を受賞したことで、この事件の存在について知りました」

 事件とは、81年前におきた「宮澤レーン事件」のことです。

日米開戦を伝えるニュース
「臨時ニュース申し上げます」

 1941年12月8日、太平洋戦争が始まった日。当時北大生だった宮澤弘幸さんと英語教師のハロルド・レーン夫妻らが、「軍機保護法違反」の容疑で逮捕されました。
 舞台となったのは、雪が降りしきる北大のキャンパスでした。旅行が好きで、各地を飛び回っていた宮澤さん。そこで見た根室飛行場を、レーン夫妻、つまりアメリカ側に伝えたとして、スパイの容疑をかけられたのです。
 しかし、この飛行場は、絵葉書になるほど公に知られていて、軍事機密とは言い難いものでした。にもかかわらず、宮澤さんらは実刑判決を受けたのです。
 終戦後釈放された宮澤さんは、冤罪を訴え続けました。大学に復学願を出し、アメリカ留学の夢も抱いていましたが、願いむなしく獄中で患った結核により27歳の若さでこの世を去りました。
 荒木さんは、同じ北大生に起きた「冤罪」事件を知り、強い衝撃を受けたといいます。

宮澤記念賞受賞 荒木裕介さん(2年)
「僕たちにできることは、事件を風化させないように、語り継いでいくことと、もう2度と同じような事件を起こさないようにすることだと思っています」

 事件を知り、危機感を抱く若者がいます。現代に語り継ぐ意味とは…。

 戦時中、北大生と英語教師らが不当にスパイ容疑をかけられ逮捕された「宮澤レーン事件」。
 長く真相が語られなかったこの事件を、多くの人に知ってもらおうと作られた「宮澤レーン事件を考える会」が主催となり、事件ゆかりの場所をめぐるツアーが行われました。

宮澤レーン事件を考える会 北明邦雄さん
「宮澤レーン事件が、なぜ起きたか、そういうことをいろいろ北大の歴史の中で理解をしていく」

 北海道大学文書館には、宮澤弘幸さんの写真が残されています。
 各地を巡る笑顔の宮澤さんや、家族とともに映る写真。直筆の手記やイラスト、そして、今も残るクラーク像やポプラ並木など北大でのキャンパスライフの様子もみることができます。
 宮澤さんと英語教師ハロルド・レーン夫妻の接点となった「心の会」…。「心の会」とは、戦時下におかれても外国人教師と学生が友情をはぐくみ、自由に学問を語り合う会でした。

記者リポート
「北大のメインストリートから少し東側に来たところなんですが、ここにはレーン夫妻が住んでいた外国人官舎があったということです」

 宮澤さんは、日米開戦の一報をきいてすぐ、外国人官舎に住むレーン夫妻のもとにかけつけ、こう告げたといいます。

「戦争は国と国の間の出来事です。私とレーン先生の間の出来事ではありません」

 国籍を超える信頼関係が不当に奪われた事件を通して、今の学生たちに「平和」について考えてほしい…「考える会」は、8月「心の会の碑」の建設を北大に求めました。

宮澤レーン事件を考える会 奥井登代さん
「北大の学生たちにも誇りとして残して伝えていきたい」

 レーン賞を受賞した、文学部3年の石本万象(ばんしょう)さんです。
 石本さんが、事件について知ったのは、去年総合博物館で開かれた80周年の特別展でした。

レーン記念賞受賞 石本万象さん(3年)
「ただ事件があったと聞くと『他人事』という感じがするかもしれないんですけど、肉筆だったり、当時の社会を伝える実際のものをみることで、本当にあったんだなと」

 大学ではアイヌ民族の歴史を研究する石本さん。
 「アイヌ」と「宮澤レーン事件」に共通しているのは、歴史を正しく知って語り継ぐことだと、考えています。

レーン記念賞受賞 石本万象さん(3年)
「いろいろな世界の様子を見ていても、民主主義がいかにもろくて、すぐに失われるかというのがひしひしと感じるので、過去の歴史、民主主義が脅かされた歴史を知ることで、このままでいいのかなと、もっと積極的に自分たちで守っていかなきゃならないと意識を高めることができるのではないかと考える」

 自身の研究の中でも、「伝える」ことの難しさを感じるという石本さん。しかし、その意義を、言葉を選びながら話してくれました。

レーン記念賞受賞 石本万象さん(3年)
「本当に80年前の出来事ではあるんですけど、ものすごく近いところで起きた事件だなと。こういう時代とか、社会に行き着かないように、意識をもって伝えていかなければいけない」

 「事件を考える会」は、今の学生たちに事件について知ってもらうため、アメリカ人のレーン夫妻が住んでいた大学構内の官舎跡に、モニュメントを建てることを北大に求めています。
 会によると、今月2日に「応じられない」と大学は回答したということで、大学も賞を設けるなど、事件を風化させまいと、さまざまな取り組みを進めているんですが、学生たちの認知度は低いままとなっています。


12月7日(水)「今日ドキッ!」午後6時台