今、世界を驚かせている北海道の“ある農産物”に迫ります!
依頼人(Kさん・60代・札幌)「倶知安にある”幻のジャガイモ”が、世界から注目されているそうです。調べてください」

北海道倶知安町。ここに常識を覆す奇跡のジャガイモがあります。
その名は「五四〇(ゴーヨンマル)」。

ジャガイモの貯蔵は、通常1か月ほどですが「五四〇」はその名の通り、収穫から540日、約1年半もの長い間、低温の貯蔵庫で眠り続けるのです。
この長い眠りの中で、デンプンはすべて、糖へと変わり、まるでサツマイモのような、ねっとりとした甘さに。一口食べれば、誰もが言葉を失う味だといいます。
あま屋天野洋海代表
「本当にジャガイモなのかと。食べたら何この甘さ。今までに感じたことのない体験ができる」
NISEKO浪花亭村井隆料理長
「なんで?なぜこんなに美味しいの?というのが最初。甘くて、『これ、ジャガイモ?』と誰もが一番最初に思う」

しかし、熟成に時間を要するため、市場には出回りません。味わえるのは、倶知安や札幌を中心とした、約100店舗の和食店や居酒屋などだけ。そして今、この知られざる逸品に世界が注目しているというのです。
本間松蔵商店本間浩規社長
「去年の年末くらいに、UAE(アラブ首長国連邦)のレストランから問い合わせがあり、興味があると言ってもらった」

世界の富豪やセレブが集まるUAE=アラブ首長国連邦の都市、ドバイ。ミシュラン2つ星の創作フレンチレストラン「ロウ・オン45」から熱い視線が送られました。

ロウ・オン45ラフル・バブ・シュレスタ料理長
「今まで食べた中で最も美味しいジャガイモだったので、もうこれしかないと思ったよ。初めて口にした瞬間、まるで栗のように甘く、滑らかな口当たりだったんだ」
ロウ・オン45では、常に世界中から最高の食材を探し求めているといいます。
ロウ・オン45ラフル・バブ・シュレスタ料理長
「世界中を探しても、このようなジャガイモは見つからない。世界でも貴重なジャガイモだ」
しかし、期待と同時に、拭い去れない不安も・・・。
本間松蔵商店本間浩規社長
「『なぜ?』と正直に思った。それで5月にドバイに行って、シェフに会って『君のためにお皿を空けて待っているから』と言われた」

世界への道のりは平坦ではありませんでした。常夏のドバイまで、この繊細な甘みをどう保つか。わずかな温度管理のミスが、命である甘さを奪ってしまいます。
解決のヒントを探すため、5月にドバイへと向かいました。
本間松蔵商店本間浩規社長
「日本の衛生管理とは全然違った」
日本とはあまりにも異なる衛生環境、食材は野積みにされていました。

「完璧な温度管理は不可能だ」。そう絶望した本間氏に、一つのひらめきが訪れました。
本間松蔵商店本間浩規社長
「今回の輸出方法は、洗浄、ボイル、冷却、冷凍までしてしまいます」
本間氏が考えたのは、日本でボイルしたものを急速冷凍してドバイまで送る作戦。だがこの作戦、言うほど簡単なものではありません。
ジャガイモの冷凍はタブー。
水分が多いため、味や食感が台無しになり、フライドポテトやマッシュポテトなど、調理方法が限定されてしまうのです。
しかし、2つ星レストランへ輸出するには、自由に調理できる品質を保たなければなりません。

「五四〇」を冷凍し、遠い海外へ送る。それは教科書にはない、誰も成し遂げたことのない、前人未踏の挑戦でした。
依頼を受ける前から試行錯誤を繰り返し、2年もの歳月を費やして、ついに「五四〇」ならではの「ボイル方法」と「急速冷凍の技術」を完成させたのです。
本間松蔵商店本間浩規社長
「9月からUAE・ドバイの方では、メニューに掲載されると聞いている」
9月、ミシュラン2つ星レストランのメニューに、その名が刻まれました。その名も「クッチャン540」。

「五四〇」の上に昆布と茗荷のジャム、大トロ、キャビアを乗せ、青柚子が香るスモーククリームを添えた、もはや芸術の一皿。唯一無二の甘みを持つジャガイモは今、世界で輝き始めました。
本間松蔵商店本間浩規社長
「生産者も食べる人も減ってくるし、産地であり続けるために、必要だと思われる商品作りをしなければ」
北海道の小さな町が生んだ幻のジャガイモ「五四〇」。世界への挑戦が始まりました。