横井庄一さんの妻・美保子さんがことし5月に亡くなりました。

一番の語り部を失ってしまった中、ことし10月、私たちは、自宅兼記念館に保管されていた約50年前に記録された1500分の肉声テープを甥の幡新大実さんを介し、入手しました。

「人なんて大きなもの撃てば当たりますよ」「きのうやられた仕返しと食料を奪うため巡察隊をやっちまおう」

率直な感想としては、戦争についてあまり詳細を語らなかった横井さんが、このテープではとても細かく、そしてところどころ生々しすぎる強い言葉で語っていました。


深掘りしたいポイントはたくさんありましたが、本人、そして妻・美保子さんにはもう聞けません。

そんな中、「AI音声解析技術」の存在を聞き、このコーナーが走り始めました。

普段、警察などから依頼を受け、容疑者の取り調べ音声の解析もしているという東京都のESジャパン。見つかったテープと帰国会見の解析を依頼しました。

人の耳では察知出来ない微小な緊張などを音声の波形パターンより検出し、発言の背景にある感情、心理状態を可視化したり、言語処理、感情処理における脳活動を確認することで、言語化速度を可視化したりする最新技術。

近年は採用活動に利用する企業も増えてきているそうです。

およそ1ヶ月後、結果が出たということで私たちは東京へ。


話を伺うと担当アナリストの杉野氏は、開口一番「正直意外な結果です」と。

杉野氏「異常な部分があるだろうと探しに行きましたが、感情をコントロールできない、何も感じないといったような精神異常性が全く見当たらなかった」


ジャングル潜伏生活という異常な状態が28年続いていたことから、「通常、精神面での何らかの異常が出てくるだろう」と予想していたそうですが、結果は「よく見る普通の結果」だったそうです。

あれだけの環境でも横井さんが心の安定を保っていたということが読み取れ…改めて人としての強さに恐れ入りました。


杉野氏「嘘や誇張して話しているという反応が全く見られなかった。自分をよく見せたいという心理が少なからず働き、一定程度そうした反応が現れることがある種普通だが、全くなかったというのはすごく特殊な結果」


解析結果の中に、目新しい何かを期待した自分もいましたが、妻・美保子さんが語っていた横井さんの強さや生真面目さ。


AIが同じ結果を導き出したことに、安心する自分がいました。

そうした中、取材の終盤「1つだけ異質な反応が見つかった」と。

杉野氏「敵を殺害するという行為について話す際、高い攻撃性に加えて『喜び』の感情が現れていた。そこに自責や後悔の感情は見られず、これはある意味、現代社会からしたら異質な反応」

”殺害行為に喜びを感じる”一体どういうことなのか…。

「反応としては、『部活動でライバルの学校に勝った』とか『友人をゲームで負かした』とかそういった時のものに似ている」

横井さんにとってジャングルでの戦闘は部活感覚だった…戦争を知らない私たちは驚くことかもしれませんが、もしかしたら戦時中ではこれが当たり前の感覚かもしれないと感じました。


殺人すら正当化される戦争が帰国後も続いていた横井さん。AIが紐解いたのはやはり、戦争の怖さだったと思います。