かつて巨額の費用をかけなければ実現できなかった国家プロジェクト宇宙開発。しかし今や2021年12月、実業家の前澤友作さんが日本の民間人として初めて国際宇宙ステーションに滞在するなど、2021年だけで世界で29人の民間人が“レジャーとして”宇宙に行きました。宇宙旅行時代はすでに始まっている中、宇宙飛行士でも資産家でもない普通のサラリーマンが、2023年にも宇宙へ旅立つ予定です。その男性の素顔に迫りました。
「不安で怖いけど好奇心が勝った」いつか行きたいと願い申し込んだ宇宙旅行

愛知県一宮市出身で、コンサルタント会社・船井総研に勤務する稲波紀明さん(45歳)。普通のサラリーマンですが、宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックが主催する宇宙旅行に参加する予定です。
ヴァージン・ギャラクティックの宇宙旅行は専用に開発された宇宙船で出発。離陸後、上空15㎞地点で母船から切り離されるとロケットエンジンで一気に高度80㎞まで上昇し宇宙空間に到達。そこで4分ほど無重力を体験しながら宇宙から青い地球の観測を楽しみます。その宇宙船で、そのまま大気圏に突入し地球へ帰還。出発から着陸までの時間は90分程度です。

稲波さんは、大学で物理・宇宙物理を専攻。いつか宇宙旅行に行ってみたいと思い、宇宙旅行の募集に申し込みました。募集が行われたのは17年前の2005年。当時28歳だった稲波さんは日本人枠1人に見事当選したのです。
(稲波紀明さん)
「当時20万ドル。『2300万円払っていいか』と親に聞くと『やめとけ』って言われるわけです。やっぱり私の中で悩みました」
90分の旅行としては2300万円はとてつもなく大きな買い物で、何より事故のリスクもある宇宙旅行。悩んだ結果は…。

(稲波紀明さん)
「宇宙旅行は不安でやっぱり怖いけど、好奇心を比較したらどっちが勝つか自分に聞いてみた。そうしたら、やっぱり好奇心が勝った」
給料も貯金も全てつぎ込み、宇宙へ行くことを決意。
稲波さんは、打ち上げにかかる6Gの重力に耐える訓練や無重力での過ごし方を学びつつ、当初の予定だった2008年を待ちます。しかし、事故などで新型の宇宙船の開発は遅れ、実施の延期が続き、気づけば17年が経ちました。
(稲波紀明さん)
「遠足に行っている時よりも前日のほうが楽しかったりするわけじゃないですか。その前日が17年続いているということを考えると、17年密度の高いというかより面白い生活が送れているんじゃないか」
「うな重を打ち上げませんか?」広がりをみせる宇宙ビジネス

稲波さんはただ待つのではなく、宇宙ビジネスの情報や人脈を集め続け本業のコンサルにも生かし、宇宙ビジネスに参入したいベンチャー企業などを対象としたオンラインのサロンを開設。アドバイスやビジネスの仲介なども行っています。
宇宙旅行時代が始まる中、関連ビジネスの市場規模はすでに40兆円を超えていて、2040年代には142兆円に膨らむと予想されています。今、世界中で新たな巨大市場として注目されているのです。

日本にも宇宙ビジネスへの参入を目指す意外な事業者がいます。長野県岡谷市の老舗うなぎ料理店「観光荘」。蒸さずにじっくり炭火焼きしたうなぎのかば焼きが自慢ですが、そのかば焼きをJAXAが認証する宇宙食にしようと取り組んでいます。
宇宙食は高度な衛生管理が求められるため、調理工場を改修して開発。1次審査はすでに通過し、採用されるかどうかの結果は22年12月にも出る予定です。「宇宙日本食」の認証を得られれば世界初、「宇宙うな重」の実現も見えてきます。

(観光荘・宮澤健社長)
「はじめ稲波さんに『うな重を打ち上げませんか』って言われて全力で僕は否定しましたよね。『それはまずいぞ』って」
すでに稲波さんの提案で去年、松本市の高校生と協力して気球で「うな重」を宇宙に飛ばしました。店の知名度も売上げもアップし、「宇宙うな重」への期待も高まっています。
「やったことがないからやるんですよ」という稲波さんの提案で始まった事業でしたが、これによって国内でも宇宙に目を向ける企業が増えていて、今後の宇宙ビジネスの広がりも見えてきました。