2023年9月にスポーツクライミングにおいて前人未踏の快挙、ワールドカップにおいてボルダーとリードの史上初2種目同時で年間王者に輝いた当時16歳だった安楽宙斗(あんらく・そらと)。同10月、アジア大会杭州でボルダー&リードでただ1人全課題を完登、リードも全体トップの完全優勝で頂点に立った。同11月のパリ五輪アジア予選では同じくただ一人全完登と文句なしで優勝し、日本代表としてパリ五輪へ臨む。一躍、金メダル候補となった、17歳の強さに迫った。

身長よりも10cm以上驚異のリーチ

安楽の身長は168cm。一般的に、腕の長さは身長と同じ程と言われるが、取材時の計測では身長よりも10cm以上長い181cmだった。

身長168cmに対してリーチは181cmだった

安楽宙斗:
木登りとか、うんていとか、ずっと腕を伸ばしてブンブン体を振ったりとかしていたので、多分長くなったのかなって思います。身長は低くても、リーチでは海外のワールドカップでも通用する。そして有利に進められるのが利点です。自分自身の強さは力を動きに対する最低限の力で登れる事だと思います。

「今までにない」脱力クライミング

クライミングの常識を覆す、安楽の最大の特徴が脱力クライミングだ。東京に続き同じくパリ五輪代表となった楢﨑智亜(27、ならさき・ともあ)が「今までにない登り方」だと分析する。
【楢﨑分析】力を使うクライミング

本人が再現した力を使うクライミング


「今の現役トップ選手は上半身系で腕を引いて、握って登るスタイル」という。力を入れた登り方の特長は肘を曲げ、腕の力で体を引き寄せて上がっていく。

【楢﨑分析】力を使わないクライミング(=脱力クライミング)

本人が再現した力を使わないクライミング(=脱力クライミング)


かたや安楽は「肘を伸ばして登る。ぶら下がって登る。力を使わずに登るのがうまい」との事。肘を伸ばして、ぶら下がるような体勢から反動を利用して、軽やかに登っていく。

実際に違いを再現した本人も力を使わずに登る脱力クライミングを認識する。
安楽:
力を抜く登りも力を抜いて登ろうというより、普通に意識しなくても力を抜いちゃうんですよ。力を入れる時は意識しなきゃいけないんですけど、もう無意識に感覚的に力を抜いちゃう感じですね、今は。楽に登りたいっていう感じです。もちろん力を使った方が安定して登りやすいんですけど、体力も限界があるので、大丈夫なところは抜いて、やっぱりボルダリングって、ちょっと長さがあるので、下(位置の方)で力を使っていると消耗して落ちちゃうので、使わなくていいところは極力使わないで、使うところはしっかり使って、やっていく。最初からガンガン腕の力を使うと上の方で消耗して落ちる。力を抜いてここはブレて落ちると思ったら、しっかり腕に力を入れる。その使い分けが得意です。使い分けるって言っても、完全にではなく、あそこは力を使えばいけたのになっていう部分も全然あるんですけど、そこを本当にどっちも鍛えて使い分けるんだったら、思い通りになります。

W杯王者としてパリ五輪頂上を目指す

出来るだけロスをなくして、勝負どころで力を使う。唯一無二の脱力クライミングと戦略をもつ安楽宙斗がパリ五輪で頂上を目指す。

■安楽 宙斗(あんらく・そらと)
2006年11月14日生 千葉県八千代市出身 千葉県立八千代高
2023年9月に初参戦のワールドカップにおいてボルダーとリードの史上初2種目同時での年間王者に輝く。同10月、アジア大会杭州ボルダー&リードで金メダル。同11月のパリ五輪アジア予選で優勝し、ワールドカップ王者としてパリ五輪へ臨む。名前の由来には“宇宙のように広い心を”持ってほしい願いが込められている。