11月、国際的な短編映画の祭典が、札幌で開催された。97の国と地域から集まったのは、招待作品を含め、2663本。ドキュメンタリーやドラマ、アニメーションなど、国内外の81作品が、札幌で上映された。

11月24日 札幌市内

 18回目となる今回、女性の権利と抑圧を描いた、ルクセンブルクの作品がグランプリを受賞。国際審査員を務めた1人が、ピーター・バラカンさん。

ピーター・バラカン氏「短編映画といっても、いろいろなものがある」

 ピーター・バラカン氏
「短編映画といっても、いろいろなものがある。ドキュメンタリーもあれば、劇映画のようなものもあるし、ミュージックビデオに近いものもあるし、政治的な内容のものもあるし、面白い、とにかく」

ピーター・バラカン氏

 バラカンさんは、1974年にイギリスから来日。音楽評論やラジオDJ、ドキュメタリー番組のキャスターなど…。
 日本の文化に精通し、様々なメディアで活躍している。

 待ち受けていたのは、HBC北海道放送の山﨑裕侍。12月9日公開のドキュメンタリー映画を手掛けた。
 4年前、札幌で起きた“ヤジ排除問題”。当時の政権に異議を唱えた2人を、警察は力づくで、排除した。

 表現の自由とは何か?民主主義や、メディアの在り方を問いかける、映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』。
 札幌や東京、大阪など、全国各地で公開される。

山﨑裕侍監督(52)

 HBC報道部『ヤジと民主主義 劇場拡大版』山﨑裕侍監督(52)
「ヤジを飛ばした人が、警察に強制的に排除されたり、年金問題に批判的なプラカードを掲げようとした女性が、警察からそれを止められたりして、表現の自由を奪われたということで裁判にもなっている問題だ。それをわれわれ、ニュースでずっと4年間、報道番組で放送してきたものを追加取材して、今度100分の映画にした。今回、観ていただけたとのことだが、その感想を…」

バラカン氏
「いや、びっくりした。こんな番組をHBCが作っていたんだ。本当に日本で珍しいと思った。反応はかなりあったか?」

山﨑監督
「われわれが取材したり、報道したりしていても『ヤジなんて迷惑だ』とか『ヤジは選挙妨害』だという風に、まだ誤解したままの人の意見とか、『なんでこんなことを取り上げるんだ』『映画の公開に反対だ』とか、そういう非常に反対する、根強い意見もまだ、たくさんリアクションが来る…そういう状況を、ピーターさんはどう見る?」

映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』を観て「人の意見をああいうふうに弾圧することはあってはならない」と、バラカン氏

 バラカン氏
「必ずそういうふうに言いたい人たちはいる。でも、政治家の話というのは、素朴に疑問を持っている人たちがいたとしても、真っ向からそれに答えることはあまりない。国民も『あなたは本当にどう思っているか?』ということを当然、知りたいはず。ヤジでなければ、多分まず声を聴いてもらえないという気持ちは、おそらくあると思う」

 映画が映し出したのは、増税反対のプラカードを掲げようとした女性らが、警察官に阻止される場面。憲法が保障する“表現の自由”を脅かす出来事だった。

バラカン氏
「警察の反応はこういう風に、こう声を荒げて発言していると、何か暴力でも起こる、起こすんじゃないか…あるいは(声を上げている)人に対して、ほかの人が起こすかもと(警察は)言っているが、それはまず言い過ぎだと思う。警察はもちろん、要人を警護する仕事はあるにしても、この場合は行き過ぎだったと思う。人の意見をああいう風に弾圧することはあってはならない」

山﨑監督
「なかには4年前の安倍政権時代で、もう終わった話だとか、そういう見方をする人もいるが、われわれは現在に通じるものだと思い作っているが、その辺りはどうか?」

バラカン氏
「もう全然、過去のことでない。裁判だって続いているし、これからだって同じようなことが起きる可能性は十分にあるので、国民がこういうことがあったことを知って、それでより多くの人が、いろんな意見は当然あると思うが、そういう意見を権力者に対して、聞かせることがすごく大事だ」

警察官に呼び止められていたときに着用していたTシャツ

 今回、1枚のTシャツを、バラカンさんが見せてくれた。

バラカン氏
「このTシャツ『ナンバー9』、ノーワォー、ラブアンドピース(No War,Love&Peace)というもの。『ナンバー9』とは、憲法9条のこと」

 東京・麻布で、このTシャツにジャケットを羽織り、仕事先へ移動中、突然、警察官に呼び止められたという。

バラカン氏「信じがたい事件でしたよ」

 バラカン氏
「(警察官から)『どこに行くんですか?』と聞かれて『仕事に向かって歩いている』と。『なぜ聞くんですか?』と(私も)聞いて。警察官は『そのTシャツを着ているので、もしかしたらデモに参加するつもりなのかなと思って』と…びっくりした。全然『別にそのつもりではないけれど、仮に、そのつもりだったとしても、それを法律に触れることではないですよね?』ちょっと信じ難い事件でしたよ」

 そして、2人の対話は、メディアの在り方についても…。

山﨑監督
「メディアの伝える側にも長く携わっているピーターさんにとって、最近の日本のマスメディアの状況は、どう感じるか?」

バラカン氏
「正直な話、僕はテレビを見なくなった。ニュースは昔、もっと見ていたが、テレビのニュースは何か、テレビに限らずだが、メディアが政府の言いなりになってしまっている感じが僕にはある。ちょっと言い過ぎかもしれないが、もちろん全部が全部そうではない。でもニュースを聞いていると、『それだけではないんじゃないか』という疑問が浮かんでくるから、そうこうしているうちに見る気がしなくなる。あくまで個人的な反応ですが…」

山﨑裕侍監督(左) ピーター・バラカン氏(右)

 大勢の前で排除された、政権に異議を唱える声。
 多様な意見を選別する、札幌での出来事は、民主主義の在り方と、メディアが果たす意味を問いかけている。

山﨑監督
「これが必要な報道だからと思って報道しただけだが、『よく作れたね』とか『よくテレビ局でこういう映画作れたね』とか驚かれることが多い。そこまで、テレビは信頼を失っているんだっていうことに、逆に気づかされた」

バラカン氏
「民主主義国家である以上、政治家のやりすぎがある場合は、ストレートニュースの番組でなくてもいいが、そういうドキュメンタリーを作って人々にこんなことが起きているということを、きちんと知らせることが大事なことだと思う。英語では“権力の番犬”とよく言うが、メディアの人たちにはそういう意識を持ってほしい」

映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』
12月9日(土)ポレポレ東中野(東京)、シアターキノ(札幌)ほか全国順次公開