10月15日にMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ)が東京・国立競技場を発着点とする42.195kmのコースで開催される。MGCは東京五輪前の19年に始まった、上位2選手が翌年の五輪代表に決定する選考レース。以前のような複数の選考会から代表が選ばれるのでなく、一発勝負的な要素が強い。4年前がそうだったように、火花が散るような激しいレースが期待できる。
そのMGCに出場する男子有力選手の特徴を紹介していく。3人目は8月の世界陸上ブダペストで12位となった山下一貴(26、三菱重工)。3月の東京マラソンでも2時間05分51秒と、今季日本最高タイムも持つ山下は勝ちきることができるのか。
■山下一貴プロフィールと成績
1997年7月29日生まれ 滑石中(長崎)→瓊浦高(長崎)→駒澤大
【マラソン全成績(カッコ内は日本人順位)】
▼2021年2月28日
びわ湖18位(17位)2時間08分10秒
▼2022年2月27日
大阪・びわ湖統合2位(2位)2時間07分42秒
▼2023年3月5日
東京7位(1位)2時間05分51秒
▼2023年8月27日
世界陸上ブダペスト12位(1位)2時間11分19秒
世界陸上ブダペストで変わった山下の意識
山下一貴にとって世界陸上ブダペストが、ある意味ターニングポイントになったのかもしれない。その経験によってパリ五輪を走るモチベーションと、MGCを勝ち抜く意欲が大きくなった。
ブダペストの成績は12位で、過去の日本代表選手と比べて特に評価できるわけではない。しかし40km地点までは5位を走っていたし、38km地点では3位の選手と17秒差だった。それでもレース中の山下は、メダルを狙えるとは考えられなかった。
「38kmぐらいから左脚のふくらはぎが痙攣し始めていたので、ゴールすることしか考えられませんでした。近いところに3位がいるな、と思いながらも無理でした」。
その一方で世界と戦うことに対しては、大きな距離は感じなかった。
「35kmから38kmぐらいまでは面白いレースができている、と思いながら走っていました。夏のマラソンが初めてだったので、準備することはまだまだあると感じましたが、普段通りに準備して、普段通りに走ればそれなりに戦えるんだな、ということが実感できましたね。世界大会の日本代表は初めてでしたが(延期になった22年アジア大会マラソン代表に選ばれていた)、また走りたいな、という思いが芽生えたんです。世界陸上を走っていなかったら、また世界大会に出たい、パリ五輪を走りたいという思いを今ほど持てていなかったかもしれません」。
パリ五輪に出るためにはMGCを勝ち抜かなければいけない。それが実は大変なことだという認識も、しっかりと持っている。
「MGCの方が世界陸上よりも緊張する気がしています。今回の世界陸上で8位以内に入ることよりも、MGCで勝つことの方が自分にとっては難しいことなんじゃないかと感じています。パリ五輪はもちろん走りたいですけど、MGCで勝つことをまずは頑張っていきたい」。
世界陸上からMGCまでの間隔は1カ月半。世界陸上前はまず、ブダペストの走りに集中すると話していた山下だが、ブダペストを走ったことがモチベーションアップになった。
直近の世界大会で最も高い実績を残し、この1年以内のマラソンで最も良いタイムを持つ山下が世界陸上を走り終え、いよいよMGCをターゲットとした集中モードに入った。