10月15日にMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ)が東京・国立競技場を発着点とする42.195kmのコースで開催される。MGCは東京五輪前の19年に始まった、上位2選手が翌年の五輪代表に決定する選考レース。以前のような複数の選考会から代表が選ばれるのでなく、一発勝負的な要素が強い。4年前がそうだったように、火花が散るような激しいレースが期待できる。
そのMGCに出場する男子有力選手の特徴を紹介していく。2人目は日本記録保持者の鈴木健吾(28、富士通)。日本最速記録を持っているだけでなく、勝負を仕掛けるシーンを何度も見せてきた選手だ。
鈴木健吾プロフィールと成績
1995年6月11日生まれ
宇和島城東中(愛媛)→宇和島東高(愛媛)→神奈川大
▼マラソン全成績(カッコ内は日本人順位)
2018/2/25 東京19位(13位) 2時間10分21秒
2019/4/28 ハンブルク13位(4位)2時間11分36秒
2019/9/15 MGC7位(7位) 2時間12分44秒
2020/3/08 びわ湖12位(7位) 2時間10分37秒
2021/2/28 びわ湖1位 (1位) 2時間04分56秒 ※日本新
2021/10/10 シカゴ4位(1位) 2時間08分50秒
2022/3/06 東京4位(1位) 2時間05分28秒
2022/7/17 世界陸上オレゴン 欠場
優勝狙いだった日本記録のレース
日本記録保持者の肩書きが、“記録”のイメージを持たせてしまうのだろう。だが鈴木は記録よりも勝負に重点を置いてきた選手だった。
「日本記録を出した21年のびわ湖マラソンも優勝を目標にしていました。タイムがそこまで出せるとは思っていなかったので」
鈴木は何度も上記のように振り返っている。
実際、予兆はなかった。20年シーズン終了時の鈴木の自己記録は、初マラソンで出した2時間10分21秒。当時の日本記録は大迫傑(32、Nike)の2時間05分29秒で、鈴木とは5分近い開きがあった。
ただ、練習はしっかりできていたという。当時の取材で以下のように話していた。「1年間故障しないで練習が継続できたことで、スタミナがついたことはよかったと思います。ウエイトトレーニングも、丁寧にやって来ました。そして年間を通じてスピードに余力があったことで、最後まで今回の走りができたのだと思います」
鈴木は神奈川大時代に全日本大学駅伝最長区間の8区区間賞でチームの優勝に貢献し、箱根駅伝でもエース区間の2区で区間賞を獲得した。学生時代に初マラソンで好走し、富士通入社2年目に行われるMGCに照準を合わせた。しかしMGC出場資格を得るため、入社1~2年目の大半をマラソン練習に費やすことになった。スピードを上げるためのトレーニングに取り組めなかったのだ。
MGC後にやっと、腰を据えてスピード練習も行うことができた。
「(トラック1周)400mが68秒ペースでリラックスして走れるようになり、余裕度が上がりました。そこが一番、マラソンに生きています」(当時の取材)
マラソンで勝負をすることを考えた鈴木が、そのためにスピードを研き、その結果マラソン日本記録も誕生した。勝負することとスピードを研くことは、当たり前だが密接に結びついている。