歌舞伎俳優の市川團十郎さんは、新開場十周年を迎える歌舞伎座の「團菊祭五月大歌舞伎」の昼の部で、「十二世市川團十郎十年祭」と銘打ち、十二世團十郎の追善として成田屋が大切にしてきた作品『若き日の信長』を上演します。團十郎さんは取材会で上演への思いを語りました。

『若き日の信長』は、織田信長の青年時代の孤独や苦悩に焦点を当て、文豪・大佛次郎が十一世市川團十郎のために書きおろし、 昭和27(1952)年に初演。初演から、十一世、十二世團十郎が大切にし、当代の團十郎に受け継がれ、成田屋の様々な節目ごとに上演されてきた作品です。

市川團十郎さん



取材会で團十郎さんは、父でもある先代の市川團十郎さんについて、“最近しょっちゅう思い出しますね。「勧進帳」の弁慶や「助六由縁江戸桜」を父に教わったことと、自分がその時に「どうだったかなぁ」みたいなことを襲名の時に思い出すわけですね。「ここはああだよ、ここはああだよ」ってことをいろいろ言っていたものの、若い自分、21、22(歳)の自分にはわからないことも正直あって、自分も45(歳)となって、「あ~こういうことを言ってたのかな」とか、なんとなくシンクロしてくるっていうか、そういうのがやっぱりこう父を思う瞬間。この信長っていう作品も父親が死ぬんだけど、みんな葬式に参加して、お念仏を唱えたり、かしこまってやってるんですよ。でも、信長からすると「そんなにかしこまったものはいらないんだ」と、心の中で偲んでいることが一番大事なんだってことを、まさにそうだなと思うんですけど、随分時間が経つ10年のタイムラグがありますけど、信長って作品と、今、父と私の関係性はそういう距離感であるなと感じます”と話しました。

市川團十郎さん



さらに“父はこうあるべきとか、こうするべきっていうことをあえて言わない人でした。父はまさにおおらかで明るい人物像でしたから、そういう意味では、せがれのことに対して、「こうしなさい。ああしなさい」はある程度言いますけど、それを父は言わないことの大変さを僕に教えた。親っていうのは「勉強しなさい。宿題しなさい。早く起きなさい。ご飯食べなさい。よく噛みなさい。歯を磨きなさい」全部色々言うわけです。これを言わないことを教えてくれました。これがどれだけ難しいことか、お父さんやお母さんもお子様がいらっしゃる方はご理解いただけると思います。(父は)やっぱり深くものを見ていた人間だったなぁって思います”と振り返っていました。

『若き日の信長』は東京・銀座の歌舞伎座で5月2日(火)から5月27日(土)まで上演されます。


【担当:芸能情報ステーション】