熊本県で台湾の半導体大手TSMCの新工場の建設が着々と進んでいる。工場ができる熊本県菊陽町周辺では地価が急上昇している。半導体特需に沸く現場を取材した。
「工業地としての地価の上昇率が全国で一番に」 企業進出相次ぐ

熊本県中部に位置する菊陽町で建設されているのが、台湾の半導体受託生産の世界最大手TSMCの熊本工場だ。総投資額は1兆1000億円で、そのうち4760億円を日本政府が補助。2024年末の稼働に向けて約2000人の作業員が24時間3交代制の急ピッチで工事を進めている。
工場では約1700人の雇用を見込んでおり、経済波及効果が期待されている。その影響は地価にも現れている。熊本市に本社のある明和不動産の上原照正氏に聞いた。
明和不動産 上原照正氏:
菊陽町の原水という地域はTSMCの進出の影響もあって、工業地としての地価の上昇率が全国で一番になった地域です。

2022年の基準地価で菊陽町の工業地の上昇率は31.6%となり、全国で最も高くなった。3月22日に発表された公示地価でも菊陽町は住宅地、商業地ともに上昇率が20%以上跳ね上がった。今、菊陽町ではTSMCや関連企業の従業員用の賃貸アパートやマンションの建設ラッシュが続いている。明和不動産もこのビジネスチャンスをつかもうと菊陽町に新たな支店を建設中だ。
明和不動産 上原照正氏:
TSMCのおかげで買いたいという要望も非常に増えていますし、従業員の部屋がない、どうしようという声を毎日賃貸の現場も聞いています。
不動産投資家の動きも活発化しているという。
明和不動産 上原照正氏:
空室のリスクにおいては他の地域に比べて非常に低いというのが一点と、今後数年、家賃が下落する可能性はかなり低いのかなと。むしろ上昇の可能性、期待値の方が高いので、菊陽界隈でマンションなどを投資用で買うというニーズが非常に高まっています。
ただ、土地の確保には苦労しているという。マンション建設用地として明和不動産が購入した土地だが、価格は当初の2倍程度という。そもそも菊陽町の土地の8割は「市街化調整区域」という開発が制限されるエリアとなっており、工業地や住宅地への転用が難しいのだ。さらなる値上がりを見込んだ売り渋りも見られるという。
明和不動産 上原照正氏:
住みたいという賃貸のニーズがある以上は、マンションが建てられるような地域を一件でも多く探して計画をしていく。地道に地主に聞いたり、情報の収集に関しては高くアンテナを張ってやっていくべきだと思っています。
地元の半導体製造装置メーカー「くまさんメディクス」では半導体製造装置の中の洗浄装置を作っている。菊陽町の周辺に11拠点24工場を持つ同社はTSMCとも間接的に取引をしており、その売り上げは4割を占めるという。

くまさんメディクス 白瀬嗣久社長:
世界一のデバイスメーカーが来るということで、その近くに我々は立地しているので、新しいサービスや新しいノウハウを身につけることができるのではないのかなと。さらに我々が伸びていけるのではないかなと期待しているところです。
ここ3年間で56億円を投資。増産体制を築いてきたが、TSMCの進出による土地需要の高まりから、新たな工場建設が難しくなったという。
くまさんメディクス 白瀬嗣久社長:
昔はほしいと思ったら比較的交渉なしで手に入ったのですが、今はかなり交渉しないと手に入ってきませんし、スピードが遅かったらダメになる。取り合いは始まっていると判断しています。
土地の需要は菊陽町に隣接する大津町や合志市にまで広がっており、白瀬社長は工場の駐車場を潰して新たな工場用地にしようと計画している。

くまさんメディクス 白瀬嗣久社長:
工場間の移動距離には非常にこだわっています。できるだけ近いところという観点で探そうとしているところです。
工場用にすでに造成した土地も菊陽町から車で10分ほどのアクセスだ。
くまさんメディクス 白瀬嗣久社長:
半導体の業界は上がったり下がったりが非常に大きいので、そういう時に余った人材を各工場に分散、移動して生産に寄与させるというのが我々の生産システムなのです。それができるように近いところでやろうと。
TSMCの進出によって活気づく熊本県の菊陽町。住民からは期待の声が相次いだ。「人口も増えたなと思いますし、海外の方も増えた。活気が出てきていいなと思います」、「子供たちが大きくなった時に就職先がこの近くであれば親としてもうれしいかな」、「菊陽町全体としては潤ってくるのではないかなという期待感があります」。一方で、タクシーの運転手からは「うれしい反面、渋滞が困ったものだと思っています。もうちょっと道路を広げた方がいいとは思うのですが」との声も聞かれた。
行列ができるラーメン店「天外天」の小田圭太郎社長は2022年8月、町の変化を当て込んで熊本市から菊陽町に店舗を移転させた。

小田圭太郎商店 小田圭太郎社長:
前は何もない町でした。何もないと言ってはいけないですが、工場ができるとなって急に発展し始めて、自分もそこに店を出せるというチャンスを頂いたので、またとないチャンスと思って出店させてもらいました。工場の従業員もいるし、関連企業の会社もたくさんできるでしょうし、そこで働く海外の方も来て多国籍にもなるだろうし、すごく面白い場所になるだろうなと期待しています。熊本の中でも一番ホットな場所になると思うので、本店としてここで力を蓄えていろいろなところに出店を狙えるように頑張っていければなと思っています。