「ちくま新書『ルポ大学崩壊』を読むと、いまの大学が、私たちが通っていた頃の大学とは大きく様変わりしていることがよく分かる」――。RKB毎日放送の神戸金史解説委員が著者・田中圭太郎さんのインタビューも交えながら、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で紹介した新書の衝撃的な中身とは?

◆「パワハラで退職強要」訴えられたのは学校法人

「パワハラは問題だ」ととられる時代になっていると思うんですが、耳を疑うような事例が起きていることを知りました。

「あなたという存在は3月末で、失礼ながら、もう要らないんですと言われているわけですよ」
「あなたにはもうチャンスはやらない」
「自分の職業人生の将来そのものに関して駄目出しをされたんですよ」

ある研修で5日間、「私の自己改革テーマ」を1人ずつ発表させました。それに対して、コンサルタントがフィードバックした言葉です。そこには人事課の職員が常に同席していたというのです。18人が受講して、9人が心療内科にかかり、うつ病や神経不安症と診断されました。この体験者は、「長時間にわたって、参加者全員に人格否定の言葉が浴びせられるのを聞くのも辛かった。はっきり言って、あれは拷問です」と述べています。

実はこれ、大学を運営する関西にある学校法人が2016年に職員に対して行った研修です。退職させたいということははっきりしていたようです。追い込んで人件費を削減したかったのかどうかわかりませんが、元職員3人は損害賠償を求めて提訴、裁判が続いています。

行政による判断はもう出ました。うつ病になったのは、学院常務らによる面談や、研修の場で執ような退職勧奨が行われたことが原因だ、として労災認定をされています。総務室長が「講師に全委任をしている」と発言したことや、研修に人事課の職員が同席していたことから、コンサルタントの発言は、委託した学院の意向に沿ったものだと判断され、3人それぞれ労災が認められています。コンサルタントとは「1人クビにすれば100万円」という契約だったという話が出ています。

◆旧知のジャーナリストが取材したルポルタージュ

この話は、フリージャーナリストの田中圭太郎さんが取材して書いた「ルポ大学崩壊」(ちくま新書、税別900円)に出ていました。田中さんは以前、大分放送(OBS)で報道記者をしていて、番組の制作などで私もすごく親しくしていた、極めて誠実な記者です。2016年にフリーランスとして独立し、大学問題を一つのテーマとして選んで取材をしてきていて、雑誌やWebメディアなどで100本近くこういった記事を書いています。「にわかには信じられないようなトラブルが起きている大学が存在する」と言っています。

神戸:今回の本は、田中さんのジャーナリスト人生にとって、大きいんじゃないですか?

田中:そうですね、結構これはいろんなものを詰め込んでますんで。出版からまだ10日ぐらいですけど、反響も結構ありますね。

神戸:衝撃的な文章が書いてありました。「今、一部の人間による大学の『独裁化』と『私物化』が進んでいる」、と断言されていました。

田中:国立大学でも、私立大学でもそういう大学があります。

神戸:「大学が壊れてしまった」、と。

田中:はい。

◆「大学が壊れてしまった」 これから迎える“2023年問題”

「大学が壊れてしまった」というのが、この本のテーマです。パワハラだけではなく、雇用の崩壊という現象も起こっています。

「2つの2018年問題」という話があります。2013年に労働契約法が改正されて、有期契約で働く労働者が5年以上勤務した場合に、無期雇用への転換が図られました。これは労働者の立場を守るためのものですが、その5年後、2018年に非常勤講師や職員の「大量雇い止め」をする大学が現れました。

もうひとつの「2018年問題」は、18歳人口が2018年から減少に転じたということです。学生が減り、そして大量雇い止めが起きたのが「2018年問題」。実は、科学技術などに関する有機雇用の研究者は10年で無期雇用転換権を得られるという特例があったんだそうです。10年経つのは、2023年の春。まもなくもう一度、大量の雇い止めが、大学や国立研究開発法人の中で起こる可能性が高いのです。

先日もNHKニュースが、理化学研究所の雇い止めの可能性について大きく報道していました。大変なことが起きているんだと、この本を読むとわかってきました。