静岡県島田市に本社を置く大井川鉄道は観光列車化による料金の値上げを予定している「井川線」について、5月8日に住民説明会を開きました。静岡県川根本町の関係者から値上げにより観光客が減ることへの懸念や説明不足に対する反発の声は根強く、大井川鉄道は6月1日から予定していた井川線の観光列車化を延期しました。
大井川鉄道の井川線は川根本町の千頭駅から静岡市葵区の井川駅まで約25キロを約2時間かけて結びます。歯形のレールを使い急坂を登り降りする国内唯一の「アプト式鉄道」があり、“湖に浮かぶ駅”として知られる奥大井湖上駅などの景観が多くの観光客を魅了してきました。
一方で、大井川鉄道によりますと井川線は過去15年にわたり定期券の発行実績がありません。地元の利用客がほとんどいない現状がある中、大井川鉄道は6月1日から井川線の運行形態を観光列車に変更し、現在の運賃に加えて企画料金を上乗せする計画していました。
観光向けに特化することで収益の改善を図る狙いで、片道料金は現在160円~1340円ですが、観光列車化に伴い区間にかかわらず大人1人1回の乗車で3500円に統一。大幅な値上げとなる見通しです。(一部列車を除く)
5月8日午後に川根本町で開かれた地元関係者向けの説明会では、“ローカル鉄道再生請負人”として知られる鳥塚亮社長が今回の決断について説明しました。
3500円の料金設定については、世界の観光列車を参考に「バリューベース・プライシング」(=顧客はこの価値にいくら払うか)を用いて算出したと報告。
「3500円は旅行代金で、安いか高いかの判断をするのは利用者が決めるもの。我々としては『3500円安いよね』と思ってもらえるように体験を提供していく」と話し、ダイヤ改正や車内アナウンスの充実、専用ガイドマップの配布などを進める考えを示しました。
さらに、「井川線は宝物。沿線地域の観光振興を皆さん一緒にやりませんかと提案をさせていただきたい」と述べ、地域と連携しながら路線の価値の向上を図る方針を強調しました。
鳥塚社長は一部住民から「拙速すぎる」と批判の声もあった6月1日を開始日としたことについて、「井川線の価値を維持することはやるべきことと考えていて、やるべきことはできるだけ早くやったほうがよいと思った。また、現場が新しい運行形態に慣れるためにオフピークの時期を設定した」と説明しました。
説明会では参加者から急な運行形態の変更について「地元への説明が不足している」との指摘が続出。鳥塚社長は説明が不足していたことを謝罪しました。
鳥塚社長は大鉄側の変更時期の見直しを求める意見に対して、「私たちは未来の話をしたい。その議論を止めるのは果たして正しいのか」と述べ、改革への理解を求めました。
説明会の終了後、川根本町議会の中原緑副議長は、「納得できていない。普通料金で乗れる鉄道も必要ではないか」と話し、「社長の強い思いを伝えるだけの会に終わった」と厳しい見方を示しました。
「夢のつり橋」や温泉が楽しめる川根本町の寸又峡で観光事業協同組合の理事を務める望月孝之さんは、「社長の独演会のような内容だった」と指摘し、「地元へのマイナス影響を抑える施策を考えてほしい」とさらなる説明を求めました。
その一方で、関係者によりますと説明会の中で参加者からは「井川線は“世界の景色”だと思う」「私は3500円は非常に安いと思う」と観光列車化に期待を寄せる意見もあったということです。
町議の一人は、「本当はみんなで協力できる形が理想。前向きに進めていくべきではないか」と話し、地域全体で取り組む必要性を訴えました。
予定の1時間を大幅に超え、2時間以上に及んだ説明会。
終了後、鳥塚社長は、「大井川鉄道に対する愛がいっぱいだった。本当に皆さん、大鉄のことを心配してくれているというのを非常に感じた」と振り返り、「井川線を高収益化することで、我々がより井川線に関われるようになる」と改めて改革の必要性を強調しました。
そのうえで「会社にとっては非常に大きな変更。これをきちっとやっていくのが私の使命でもある」と述べ、在任中の実現に強い意欲を示しました。
大井川鉄道は地元からの反発の声を受け、6月1日に予定していた井川線の観光列車化をいったん延期し、スケジュールを再度検討したうえで近日中に発表する方針です。














