国際秩序の“守護者”であったアメリカが、自国第一主義のもとで現状を積極的に変えようとする「現状変更勢力」へと転じたことで、世界は新たな不安定期に突入しました。トランプ氏の強硬策が日本を含む同盟国にどのような影響をもたらし、中国やロシアといった国々との関係はどう変わるのか。

激動する国際情勢の最新動向と今後の見通しについて、政策シンクタンクPHP総研特任フェローの菅原出氏に伺いました。菅原氏は邦人企業や政府機関等の危機管理アドバイザーを務めています。(聞き手:川戸恵子 収録:1月21日)

アメリカが「現状変更勢力」に転じた衝撃—ベネズエラ攻撃の意味

――なんといってもトランプさんの動きですよね。1月だけでもベネズエラへの軍事介入、グリーンランド獲得への動き、イラン情勢への関与など強硬策が続きました。

PHP総研 特任フェロー 菅原 出 氏:
やはりトランプ大統領のアメリカ自身が2026年の一番のリスクであるという点は皆さんもお気づきだと思います。(PHP総研が発表した)グローバルリスクの中では、「トランプ『現状変更』で、液状化する世界と米国」というものを一番に挙げました。

――これはどういうことなんでしょうか。

PHP総研 特任フェロー 菅原 出 氏:
「現状変更」って括弧で書いてあるところが結構ポイントで、アメリカはこれまで現状“維持”する一番の勢力だったわけですね。

これまでアメリカが世界のルールを決めて守ってきた。それであまり利益を享受できない国々が「その現状を変更するんだ」っていうことで挑戦してきた。それに対して現状を維持する勢力が、今の世界秩序を守る。そういう構図だったんですね。

ウクライナ戦争が一番典型で、国家間の紛争を軍事的にやってしまうのはよくないっていう、そういうルールをずっと積み上げて作ってきたわけで、それをロシアが破ったわけですよね。ですので、欧米が一体となって今の秩序を守るんだということで、ウクライナを支援してきた。

ただ今回、トランプ政権がこれまでの世界秩序を守るってことはアメリカの利益にならないんだっていうことを宣言したわけですね。なので、もう自国中心でアメリカファーストでやっていくんだっていうことでアメリカ自身が、実は「現状変更」勢力になってしまった。そこが一番の大きな構造的な転換だということでこの問題を一番に挙げています。

――トランプさんの動きは私たちには予測できないですね。

PHP総研 特任フェロー 菅原 出 氏:
そのヒントになるのが昨年の12月に出した国家安全保障戦略というものなんです。その中でアメリカが今後、こういうことを重要視してやっていくんだっていうことを宣言しています。

実は今回のベネズエラ攻撃も、そこに書かれて宣言した通りのことをやってるという意味なので、トランプ政権とすれば「言っただろう」と。国際法には我々縛られないんだっていうことで、今回のマドゥーロ大統領を逮捕したのもアメリカの国内法違反だっていうことでやってしまうっていうことなんですよね。それを誰も現状止められないというのが今の国際社会の現実でもあるわけですね。

それが、何のためにやっているのかというと、麻薬がいけないとか、いろんなことを言いながらも結局は、世界最大級の石油埋蔵量を持っているベネズエラの石油をコントロールしますという。主に中国やキューバとかに売っていたわけですけども、それを中国なんかでも売らせない、売るにしても我々を通せという形でですね、石油というベネズエラにとっては一番の収入源をそこをコントロールしたことで、ベネズエラに対して圧力をかけながらコントロールしてるという状況ですね。

――ベネズエラの方も、石油の販売収入として3億ドルを受け取ったというニュースがありましたが。

PHP総研 特任フェロー 菅原 出 氏:

今のところはやはり自分たちもですね抵抗するとやられてしまうということなのでアメリカを怒らせないようにしながら、何とか自分たちの権力を守っていこうというふうに、今のベネズエラを指導してる人たちは考えているんだと思うんですね。

一番心配されたのは、2003年のアメリカのイラク侵攻のように当時あったフセイン政権とイラクの支配構造っていうのを全部ひっくり返してしまったわけですね。そしたらもう大混乱で内戦になってしまった。その間違いは繰り返さないようにっていうことで、トップに副大統領を据えて、権力構造を一切手つけてないんですよね。

間接的に一番の収入源をコントロールすることによってこのベネズエラに言うことを聞かせようというのが今の作戦で今のところは何かうまくいってるように見えるんですけども、ずっとこれでベネズエラ満足なんですかっていうと、これなかなか持続性ないんじゃないかと思うし、軍事的な圧力をずっとアメリカはかけ続けなきゃいけないっていうことでそのコストも結構大変ですよね。