半世紀前に高知市で起きた「高知パルプ生コン事件」。全国の公害闘争の流れに大きな一石を投じたこの事件を題材にした演劇が、11月、高知市で上演されます。「声をあげる勇気を、今を生きる人にこそ知ってほしい」劇作家の思いを聞きました。

1971年に起きた、「高知パルプ生コン事件」を知っていますか?水質汚染が深刻化していた江ノ口川で、汚染の最大の原因と見られていた高知パルプの工場排水管に「浦戸湾を守る会」のメンバーが生コンクリートを流し込みました。操業ストップまでつながったこの事件は、全国で激化する公害闘争の流れに、大きな一石を投じました。

この事件について描いたのは、劇作家で演出家の坂手洋二さんです。

読売演劇大賞最優秀演出家賞を2度受賞。現在は、国際演劇協会日本センターの理事を務めています。

坂手さんは、2023年、仕事で高知を訪れたとき、環境問題や自然保護に携わる人たちから、「この事件を形に残してほしい」という思いを聞かされました。

(劇作家・演出家 坂手洋二さん)
「そのころの人たちにとっては非常に大きな事件だが、今、伝えられていない。50年以上たっているので、知らない人も増えてきて、『演劇にする形でその事件をもう一度見直すようなことがあればいいな』という。いろんな思いの人がいて・・・。それで僕は(事件のことを)調べたり、現場に行ってみたりするようになった」

演劇では、事件を忠実に再現し、当時を生きた人の思いを丁寧に描いたといいます。

(劇作家・演出家 坂手洋二さん)
「環境問題がないがしろにされやすい構図が明確に示されていた事件で、止めようとしている人が感じる“無力さ”、“虚しさ”に対して、(過去に)そういう人たちがいたことが、今の人たちにとって、励まされるのでは」

当時を力強く生きた人たちの姿を目の当たりにすることで、「現状は変えられない」と諦めてしまわずに、声をあげる勇気をもってほしいと考えています。

(劇作家・演出家 坂手洋二さん)
「個人の決断・個人の行動が全体にちゃんと反映しうるんだと知ることで、人は励まされるし、自分ひとりで考えている事、感じている事は決して孤独にそこで終わるんじゃないんだと。もう50年前の事件なんですけど、そのことを知ることは僕たちにとって大事なことだし、意味があるんじゃないかと思いますね」

演劇「高知パルプ生コン事件」は、11月19日と20日に、県立県民文化ホールグリーンホールで公演されます。