「私は生まれたときから、ついぞ生涯にわたって頭を撫でられたこともないし褒められたこともない。そういう父親でした。まったくこんな男にはなるまいと」

戦争での体験が心の傷となり、様々な症状に苦しめられる「戦争PTSD」。その影響は子や孫の世代にまで広がっているとされ、終戦から80年をた今も、家族の心に影を落とす。

今月、那覇市で開かれたシンポジウムに登壇した黒井秋夫さん(76)は、自身の父親の記憶をとつとつと語った。

「朝から晩まで話もしない。閉じこもりきりで暗い顔をして、子どもに対する愛情表現もできない」

家族のビデオにおさまる黒井秋夫さんの父・慶次郎さん。1980年代撮影

「おじいちゃん、ピースしてくれ。早くしてくれよ」

ホームビデオを撮影する幼い孫の呼びかけにも何の反応も見せない、黒井さんの父・慶次郎さんの生前の姿が残っている。

「心の底から嬉しそうに笑った顔は見たことがないですね。常に悲しそうな顔で、ほとんど自分から話しかけるということのない人でした」

慶次郎さんは亡くなるまでの40年間定職につかず、家族は貧しい生活を余儀なくされた。

「本当にこの男はダメな男だなと。何もできない人だなと。何の頼りにもならない」