日本航空傘下のLCC(格安航空会社)の『ジップエア』では3月、最長路線となるヒューストン線が就航。“安さ”だけじゃない、攻めの路線拡大戦略を西田真吾社長(57)に聞く。
北米・アジアへ「国際線専門LCC」
まもなく始まる、夏休み。
成田国際空港は10日、一足早く海外へ旅立つ旅行客の熱気に包まれていた。

「いつもなるべく旅費は抑えて行っているので安い航空会社があるのはありがたい」
「JALの子会社なので何度か利用している。安いところが一番」
現在10路線を運航している国際線専門のLCC、『ジップエア』。

成田-▼サンフランシスコ▼サンノゼ▼ロサンゼルス▼ヒューストン▼ホノルル▼バンクーバー▼ソウル▼マニラ▼シンガポール▼バンコク
米ロサンゼルス行きは「片道4万5000円~」(税別)ということもあり、この日の搭乗率は9割以上だ。
グランドスタッフ:
「最近はビジネスで利用する乗客より観光メインが多い。特にドジャースの大谷選手を見にいく乗客も大変多い」
なぜテキサス?「ヒューストン線」の狙い
人気の北米路線の中でも特に注目を集めているのが、3月に就航したアメリカ南部テキサス州への「成田-ヒューストン線」。ジップエア10番目の路線で、“片道14時間”と日本のLCCとしては最長路線となった。
「おかげさまで3・4・5月と毎月乗客が増えていて、現時点だと大体7~8割はどの便も埋まっている」

こう話すのは、日本航空の子会社として2018年に設立された『ジップエアトーキョー』で舵を取る西田真吾社長(57)だ。就任後まもなくしてコロナ禍という逆境に立たされたが、その最中も着実に路線を増やしてきた。
ーー今回なぜヒューストン線を?
西田社長
「ヒューストンはトヨタ、ダイキンなど多くの日本企業がアメリカ国内でオフィスを移転している動きもある。航空、宇宙、医薬品、エネルギー産業がテキサスに集中していて経済的にも人口動態的にもどんどん伸びている最中であると」

そして、決定的だったのはイーロン・マスク氏率いる『スペースX』のカリフォルニアからテキサスへの移転の発表。「ずっと西海岸に集中して北米では飛んできたが、次行くときは南部、テキサスだということで始めた」(西田社長)
またヒューストン線ではメキシコなど中南米や南米への乗り継ぎ需要も期待。さらに、「超長距離路線の試金石」でもあると話す。
ーーヒューストンは片道12時間以上で、場合によっては14時間。24時間で1機が回らず、航空機8機では大変なオペレーションでは?
西田社長:
「今まで基本的には24時間の間に行って帰ることができる路線を集中的にやってきたので、ヒューストンのような24時間を超えてしまう路線は初めてのチャレンジ。このチャレンジがうまくいけば、例えばアメリカの東海岸、アジアでももう少し遠いところでのオペレーションに応用しようとしている」
「フルフラットシート」でも格安
長距離フライトを快適な空の旅にー
ジップエアには、LCCの常識を覆すシートがある。

使用するボーイング787-8型機で前方に18席あるのは「ジップフルフラット」。全席通路側に面した半個室的な空間で、上級クラスのシートとなる。(成田-ヒューストン:片道18万8500円~※税別)

播摩卓士キャスター:
「普通の航空会社のビジネスクラスと同じような席。ボタン一つで完全に180度のフルフラットに。10時間くらい、しかも仕事で行くとなるとこういう席はありがたい。LCCでもこういうシートで寝られる時代になった」
後方に272席あるのが「スタンダード」。エコノミークラスながらも日本航空や全日空といったフルサービスキャリアと同じ「シート間隔79cm」だ。(成田-ヒューストン:片道5万5250円~※税別)

播摩キャスター:
「座席の間隔がそれなりにあるので、LCCという感じはあまりしない」

そして、播摩キャスターが「特徴的で合理的」と感じたのは、ジップフルフラットでもスタンダードでも、「座席にモニターが付いていない」こと。
その代わりに機内では「Wi-Fiが無料」で使え、テーブルとは別にスマホやタブレットが置ける台も。自分の端末で好きなものを楽しむスタイルだ。また、ボーイング787-8型機で全290席というのはかなり多い座席数だが、スペース確保に関係しているのが「食事の有料」システム。
食事を頼まない人もいて全乗客分を積む必要がないため、ギャレー(キッチン)を縮小し座席に充てているという。

西田社長:
「普通の航空会社に比べれば機内に多くの座席を用意するが、一人一人の空間は長距離の移動にも耐えられるようにきちんと維持しようと。あとはWi-Fiを無料で使えるようにしたり、機内食の注文をもらったり“乗客が自身の旅行を自分で設計できる”」
