■マイナカード最大の失敗はネーミング?
「マイナンバーカード最大の失敗は、“マイナンバーカード”という名前をつけたことだ」
以前、ある政府関係者が私にこう語った。どういうことか。
政府関係者
「本来マイナンバーカードは、カードのICチップを利用した、全国民が持つ身分証明書となることが期待されていた。「デジタル時代のパスポート」と言われるのはそのためで、マイナンバーは使わないし関係がない。しかし、「マイナンバーというものは他人に漏らしてはいけない」「重要情報です」と事前に宣伝してしまったため、そんな大事なものが書いてあるカードは持ち運べないというイメージがついてしまった」
全国民が無料でICチップ付きの身分証明書を取得できる、というのは世界でもほとんど例がない取り組みであり、デジタル社会で優位に立てる、そんな思惑があったということだが、マイナンバーが足を引っ張った、という解説だ。
ちなみに現在、政府は「マイナンバーを他人に見られても大丈夫です」「マイナンバーだけ、あるいは名前とマイナンバーだけでは情報を引き出したり、悪用することはできません(河野デジタル大臣のブログより)」と強調している。
そんな“負のイメージ”からスタートしたマイナンバーカードだが、全国民にカードを取得させるべく汗をかいてきた2人の総理がいる。菅前総理と岸田総理だ。
■マイナカードと菅前総理
菅義偉前総理
「河野さんがデジタル大臣でよかったよね」
政府が打ち出した、2024年秋にも紙などの保険証を廃止し、マイナ保険証の取得を“実質義務化”する方針。感想を聞かれた菅前総理は周囲にこう漏らした。
菅氏は官房長官時代、マイナンバーカードと保険証の一体化を打ち出したことで知られる。
実は、その菅氏、カードの配布が始まる前は「全国民に配布するのは無理だ。普及は難しいだろう」などと否定的だった。
しかし、その数年後、マイナンバーカード事業を一からやり直すことも考えたものの、すでに事業に数千億円が費やされていることを知り、それならば有効活用しなければ、と考えを改めたのだという。
菅総理(当時)(2021年3月31日 衆院内閣委にて)
「特に設置の際は5000億ぐらいかかっていました。そうしたお金がかかっていて、たしか10数%の利用率だったんです。国民の皆さんに申し訳ない、そういう思いの中で、何が一番早く、また国民の皆さんにお役に立てるかと考えたときが、保険証だったんです」

総理大臣時代には、マイナンバーカードと運転免許証の一体化についても本格的に乗り出し、自身の秘書官だったこともある中村格・警察庁次長(当時)に「一体化の早期実現」を命じた。結果、当初は「2026年度中」とされていた一体化の目標時期が「2024年度中」と一気に2年前倒しされることになった。
しかし、その菅氏でさえも、現在使われている、紙などの保険証の廃止には踏み込まなかった。
関係者によると、「当時は医療機関にマイナンバーカード読み取り機がほとんど普及しておらず、現場からも強い反発の声があったから」だという。
こうした経緯があるだけに、冒頭の菅氏の発言は、発信力があり、多少の反発にひるむことなくマイナンバーカード普及の旗を振り続ける河野氏の行動を評価したものだ。