独自の社内報告ルール「トップ5シングス」

NVIDIAには「トップ5シングス」という独特の報告ルールがあります。これは、社員が今考える関心事をトップ5まで箇条書きでメールする制度です。

島津氏
「3万人の社員からのトップ5が届きます。ジェンスン・フアンはランダムに読んだり、検索して情報を得るためのツールとして使っています。例えば、ロボットについて気になっている時に『人型ロボット』で検索すると、関連する情報が集まります」

この仕組みにより、フアンCEOは組織の隅々まで目を配り、重要な情報や変化の兆しを見逃さないようにしています。

また、NVIDIAがAIブームを先取りできた背景には、この「トップ5シングス」が大きく貢献している、と島津氏は明かします。

島津氏
「ヘルスケア担当の幹部が大学を担当していた時に、大学の研究室でAIの処理にGPUを使っていることを見つけました。当時、GPUはAI向けの半導体ではありませんでしたが、この情報をトップ5でジェンスンに送ったんです。彼はそれに気づいて、AIとGPUの相性の良さを認識しました」

「ミッション・イズ・ボス」の精神

NVIDIAの社員たちが共有している重要な考え方に「ミッション・イズ・ボス」があります。これは、「会社の使命こそが、自分たちの上司である」という概念です。このユニークな考え方について、島津氏は次のように説明しています。

島津氏
「上司が言うことではなく、会社が目指すべき方向があなたの道しるべ、という考え方です。AIで世の中を良くするアプリケーションができるというビジョンが見えてきた時、NVIDIAは何をすべきか。AIを社会に根付かせることが我々のミッションだと思ったからこそ、多くの社員がついてきたのだと思います」

「現場に近くあろうとする姿勢が大切」

最後に、島津氏はジェンスン・フアン氏の経営から日本企業が学べる点について、こう指摘します。

島津氏
「ジェンスンのすごいところは、経営者でありながら一流のエンジニアでもあるということです。自分の事業領域について何よりも自分が詳しい。これが彼の大きな強みです。日本の経営者も、もっと現場に近くあろうとする姿勢が大切だと思います」

NVIDIAの成功は、従来の常識に捉われない柔軟な思考と、明確なビジョンに基づく大胆な意思決定の結果と言っても過言ではありません。日本企業も、この「型破り経営」から学ぶべき点は多いでしょう。