僕のお手本、谷川さんの「じゃあねえ」

認知症の母親を2012年に亡くすまで、介護をしながら、感じたことを詩に書いてきた藤川さん。母親が生きていたころ、谷川さんに言われた忘れられないことばがある。

藤川さん:
「谷川さんは僕に「お母さんが亡くなられた後、藤川さんがどんな詩を書くのか楽しみだな」と言いました」

「僕にとってそれはとてもプレッシャーでした。でも結局僕は母が亡くなった後も変わらなかった。『生活に根づいたことば』を、ずっと書き続けているんですよね」

「それからもう一つ。これを思い出すと泣きたくなるんですけど…。谷川さんは電話を切る時いつも『じゃあねえ』って言うんです。その『じゃあねえ』にこもっている親しみといったら…。僕もこんな風に言いたいなと思わされました。あの『じゃあねえ』は、僕にとってお手本ですね」

『ことばは声にすると起き上がってくる』

藤川さんは、全国各地で「詩の朗読」を交えた講演活動も精力的に行っている。

藤川さん:
「講演は、2000年に詩集『マザー』(ポプラ社・2000年)を出した頃から依頼が入るようになりました。詩の朗読を交えながら認知症の母のことを話す内容なのですが、どんどん依頼が増えていって年間70回を超えた年もありました。そうなると、詩を書く時間がなくなってきて…」

「詩人として独り立ちしたのに、講演ばかりで詩を書く時間がないとは本末転倒だ!講演を止めようと思ったんです。そんな折、谷川さんから『ことばは文字のままだと寝たままだが、声にすると起き上がってくる』というような話を聞いたんです」

「講演で、認知症の母のことを書いた詩を朗読して、聞いている方々が涙ぐむ姿を見た時、本の中で寝そべっていた私のことばが立ち上がって、私の思いを連れて人の心に響いているのを感じました」

「詩のことばの後ろには豊かな世界が広がっていて、詩は朗読されて初めて、その本当の姿を現す時があるのだ、と思いました。詩を、声の響きで伝える大切さを実感しました」

「『朗読も含めて詩の存在ではないか』と思うようになり、以来講演もしっかり大切にするようになりました」

谷川さんのことばに支えられて、講演は2024年5月に500回を超えた。