いまから57年前に一家4人が殺害された、いわゆる「袴田事件」の再審=やり直しの裁判が、10月27日午前11時から静岡地方裁判所で開かれます。袴田巖さん(87)は、心神喪失の状態であることから出廷は免除され、被告人不在となる異例の展開をたどっていて、再審公判の最大の争点は「5点の衣類に残る血痕の色」が赤いのか、検察、弁護団、双方の主張がぶつかります。

「気持ちはどうってことない。裁判行くだけだもん。大して難しいことじゃない。当時は57年とか、34年とかそんなこと考えてなかったから、無我夢中で。この頃になって、57年って長いなと思うけどね、そんなもんですよ」
初公判を前に心境を語ったのは、長年にわたって弟の無実を信じる巖さんの姉・ひで子さん(90)。袴田さんは、長年えん罪が疑われる事件の渦中にいます。

この事件は1966年、静岡県旧清水市(現静岡市清水区)でみそ製造会社の専務一家4人が殺害され、火を放たれたもので、従業員だった袴田さんが逮捕され、裁判では一貫して無罪を訴えましたが、死刑が確定しました。

袴田さんは、獄中からも無罪を訴え、1981年、再審を請求しましたが、2008年最高裁判によって訴えは退けられました。その後、長年の拘置所生活で拘禁症を患う袴田さんに代わり、姉・ひで子さんが再び再審を請求。2014年、静岡地方裁判所は再審を認め、袴田さんは釈放されました。
2023年3月、東京高等裁判所は、袴田さんの犯行着衣とされ、死刑の決め手となった重要証拠の「5点の衣類」について、捜査機関によるねつ造の可能性が高いなどとして、再審開始を決定しました。
事件発生から57年を経て、初公判を迎える再審では、袴田さんが、事件の犯人であるのか。検察は有罪を立証し、弁護団は無罪を主張します。

裁判所は袴田さんが、心神喪失の状態であるとして「出廷について強制はしない」として、出廷の免除を認めています。被告人不在の裁判は、まさに異例。27日午前に行われる冒頭手続では、巖さんの補佐人であるひで子さんが、起訴内容に対する罪状の認否と、意見を述べることになります。
再審では、「ねつ造の疑い」を指摘された「5点の衣類」が、改めて最大の争点となる見通しで、双方が新証拠を用意し、専門家らによる証人尋問も予定されています。

「5点の衣類」は、事件から1年2か月後にみそタンクの中で発見されました。発見時、袴田さんはすでに逮捕・拘留されていたため、少なくとも、1年以上はみそに漬かっていたことになります。
弁護団はこれまで、「血痕の色は短時間でもみそに漬かれば、黒くなる」という実験結果を、法医学者による鑑定として提出。東京高裁が決定した再審開始の決め手となりました。今回の再審公判でも、弁護側は法医学者を証人尋問し、これまでの主張を補強していく考えです。
一方の検察は「長期間みそに漬かっても、赤いままである」ことを主張し、高裁の決定を覆したい考えです。今回の再審でも7人の法医学者による共同の鑑定書や法医学者を証人として呼び、「血痕に赤みが残る可能性」について条件を細分化して示していくことになります。
今後の審理計画として、証拠調べに時間がかかることから、注目の証人尋問は2024年2月頃から始まり、結審は4月以降になるため、弁護団は夏をめどに、判決が言い渡されると推測しています。










