今年5月、静岡県富士市が市税の滞納者と間違えて、他人の預金口座を差し押さえていたというミスが、世間を騒がせた。

「富士市には住んだことがなく、心当たりがない」。差し押さえを受けた別人からの連絡で発覚した、笑うに笑えない“失態”は、どうして起こってしまったのか。

富士山のふもとに位置する静岡県富士市。人口は約25万人、製紙業など工業が盛んな街だ。静岡、浜松という二大政令市に次ぐ静岡県第3の都市で起こった「ありえないミス」が発覚したのは、4月26日のことだった。

「富士に住んだことがない」

担当課に指摘が入ったのは差し押さえからわずか1日のことだった

税金の収納や管理を行う収納課に、こんな指摘が入った。

「金融機関から、預金口座差し押さえの連絡があったが、富士市には住んだことがなく、心当たりがない」

連絡をしてきたのは、自身の預金口座から10万円あまりを差し押さえられた静岡県外在住者。なんと、市税を滞納していた住民と間違えられてしまった、というのだ。

身に覚えのない話で、大切な財産を差し押さえられてしまう…こんなことが仕組み上、起こりえるものなのか。

“法令”に基づいた行為だったが…

自治体が滞納者の財産を差し押さえる方法

税金の滞納は、自治体にとって深刻な問題だ。未収金が増えれば、財政を圧迫し、住民サービスの低下にもつながりかねない。さらに、きちんと納めている住民との公平性も保てない。

こうした事態を防ぐため、自治体には、裁判などの手続きや納税者の同意がなくても、財産(給与・預金・不動産など)を調査し、差し押さえすることができると、法令で定められている。

富士市では4月25日、この法令に基づいて、市税を滞納したとして、預金口座から10万6225円を差し押さえた。ただ、それがまったく無関係の別人の口座だったのだ。

「氏名と生年月日が同じだったが…」

ミス発覚後初の定例会見で釈明に追われる小長井義正富士市長=6月8日撮影

「今回の事例は誕生日が同じで、名前も同じだった。しかし、実は名前の漢字が一文字違っていた」

「金融機関によっては、漢字の確認をせずに、読みの部分だけで同じ人物だという報告がある」

6月8日、富士市役所で行われた市長定例会見。ミス発覚後、初めての会見とあって、小長井義正市長には記者からの質問が相次いだ。そこで、次々と新たな事実が明らかとなった。

自治体は、差し押さえをするにあたり、金融機関などに税金滞納者の財産があるかどうか、氏名・生年月日・住所などに基づいて調査を依頼する。

今回、調査を依頼された金融機関からの回答文書に名前が挙がった人は、奇しくも市税の滞納者と「名前の読み」、さらに「生年月日」が一致していたのだ。

ただ、「名前の漢字」は一文字違い。「住所」は、富士市ではなかった。

“スルー”されてしまったミス

2人の違いは名前の漢字一文字と住所 防げたミスだった

にもかかわらず、担当した職員は文書をよく確認しないまま、差し押さえの手続きに入ってしまった。

ミスは重なる。差し押さえの際は、決裁書類に金融機関の回答文書を添付する決まりだが、今回、添付されず、上司の確認も行われなかった。チェック体制が機能しなかったことも、差し押さえにまで至ってしまった原因のひとつだ。

指摘から1週間過ぎた5月2日、富士市は誤って口座を差し押さえてしまった人に、10万6225円を返金し、電話と文書で謝罪した。

ヒューマンエラーを防ぐ方法はあるのか

笑うに笑えないミスで注目を集めてしまった富士市役所 

「上司の再チェックを徹底する。内部でも改めて確認したところ」

再発防止策について、記者に問われた小長井市長は、決裁時の確認を複数で行うなど、チェック体制を強化すると今後の方針を示した。

5月には山口県阿武町で、新型コロナ関係の給付金が誤って1人の男に4630万円振り込まれ、問題となったが、こうした自治体の金銭をめぐるミスは、全国でたびたび起きている。

人間が作業を行う以上、どこかでミスは発生するものだが、二重、三重のチェック体制で、最悪の事態にならないよう、自治体には細心の注意を払ってもらいたい。