2021年7月、死者・行方不明者あわせて27人を出した静岡県熱海市の土石流災害から10か月余り。原因究明を進めてきた熱海市議会の百条委員会は、きょう5月12日、現在の土地所有者、さらに、前の土地所有者への証人尋問を実施する。

「なぜ、危険な盛り土はつくられたのか」

最大のヤマ場となる尋問を前に、前の土地所有者が初めてテレビカメラの前で心境を語った今年2月のインタビューを改めて振り返る。前の土地所有者はこの時も、盛り土への関与を否定したうえで、このままでは「えん罪」になると話し、持論を展開した。

「もし、この原因が私でなければ…」

土石流の起点となった盛り土跡 現在でも多くの土砂が残ったまま=熱海市伊豆山

前土地所有者の男性
「うちはね、名義人だけなんですよ。あくまで。名義人だけじゃないですか。実行したのは別の運搬・造成業者なんですよ」

SBSのカメラの前で、盛り土造成への関与を否定した男性。以前経営していた不動産会社で2011年まで盛り土の土地を所有していた。

前土地所有者の男性
「何もしてない。職員さえも行ってない。自分がこうであったことが曲げられてそれを着せされるのは納得がいかない。僕はもしこの原因が私でなければ、いま冤罪を受けようとしている」

2021年7月、130棟以上の建物を飲み込んだ熱海市の土石流災害。災害関連死を含めて27人が死亡、いまだに1人が見つかっていない。盛り土が被害を大きくした可能性を指摘し続けたのは行政だった。

難波喬司 静岡県副知事
「盛り土の工法は不適切であっただろうと思います」

斉藤栄 熱海市長
「行政側の厳しい対応を避ける巧妙な手口であったと言わざるを得ず」

盛り土は男性が代表を務めた神奈川県小田原市の不動産会社が2007年、熱海市に届け出て造成が始まった。当時の届け出を確認すると、多くの項目が空欄のまま出されていた。

前土地所有者の男性
「まぁ今パッと見ると今の思いは、なるほどな書かなくてもよかったのかなとか思うけど、熱海市に許可を出してもらったんだからよかったんじゃないですか」

結局、盛り土は規定の3倍以上の高さに積みあがり、その危険性から行政は防災対策など、再三にわたり指導してきた。

「新所有者は10年間に何をやっていたのか」

伊豆山地区を飲み込んだ大量の土砂 いまだ1人の行方が分かっていない=2021年7月3日撮影

記者
「現場が違法状態っていうのは知っていたか」

前土地所有者の男性
「正しい報告があれば知っていたでしょう。あれば修正をさせたでしょう。だけどいま自分の記憶の中ではあまりそういう記憶がないので(部下が)報告をしてこなかったのかもしれないし(報告に)来たとすれば言っていましたとしか答えようがないんだって」

危険な状態の盛り土は2011年に現在の土地所有者に売却された。その後も十分な対策が取られることはなく引き渡しから10年、土石流が発生した。

前土地所有者の男性
「現在の土地所有者が10年間保有している。安全に対する義務があるでしょ、だから安く買えたんじゃないですか?」

記者
「そうすると現場を是正する責任があるのは?」

前土地所有者の男性
「新所有者でしょ。当然として。10年間何をやっていたの」

10年後に人を殺そうという人などいない

「自ら原因を明らかにしたい」と話す前土地所有者 きょうの証人尋問では何を語るのか=2022年2月撮影

前の土地所有者を追及するのは行政だけではない。現在、遺族らに殺人容疑で告訴されていて、警察の捜査を受けている。

被害者の会 瀬下雄史代表 
「客観的な資料がいろいろ出てきている中で当事者だということがはっきりなっている中でも自分は善意の第三者だと貫き通そうとしているところは普通じゃないなと思った」

前の土地所有者の男性は、土石流を予見できたわけではないと、刑事責任については否定している。

前土地所有者の男性
「遺族の方とかそういう人に失礼になるから、僕の思いで消すとか僕の思いで伝えるのは失礼。だけど10年後に人を殺そうという人はいませんよね。この状態の写真見てまさかでしょ。僕は経験則かもしれないけどまさかですよ」

前の土地所有者の男性は、自ら土石流が発生した原因を明らかにしたいと話したうえで、現在、警察が進めている捜査には全面的に協力する姿勢を示している。

記者
「盛り土の申請は(前土地所有者)の会社になります。責任というのは全くないと言えるんでしょうか」

前土地所有者の男性
「原因がわからないのに、責任論を語るべきではないです」