シリーズ「現場から、」です。目の不自由な人が行きたいときに行きたい場所へ行けるようサポートする盲導犬が年々、減少しています。背景にあるのは、資金不足や人材不足といった課題の数々でした。
<盲導犬ユーザー 岩本多加臣さん>
「よしグッド。できたね」
静岡市に住む岩本多加臣さん。視野が狭くなり、視力が徐々に低下していく網膜色素変性症という難病を患っていて、2024年6月から盲導犬のカドルとの生活が始まりました。当初は不安が大きかったと言いますが、少しずつ信頼関係が築かれているようです。
<盲導犬ユーザー 岩本多加臣さん>
「こっち曲がってと言っても行かないので、なんで行かないんだろうと思っていると、そこは行けないところだったとか、階段の降り口だったとか。そのまま行ったら落ちてしまうので、一生懸命止まっていてくれたこともあるので、だんだん信用できるようになっていった」
盲導犬は目の不自由な人にとって大切なパートナーです。しかし、その数は年々減少しています。
国内で盲導犬の利用を待つ視覚障害者 約3000人に対し、現在、活動している盲導犬は約800頭と供給が全く追いついていないのです。
「ストレート、ゴー。グッド」
静岡県富士宮市にある民間の盲導犬訓練施設「富士ハーネス」。約20頭の候補犬が訓練を受けていますが、運営は厳しい状況です。
<日本盲導犬協会富士ハーネス 山本ありささん>
「90%以上が皆様の寄付や募金で成り立ってるような状況です。都道府県などで補助金の助成制度というものをしているところとしていないところもありますので、確実に行政からこの金額というものは実はないですね」
盲導犬1頭の育成費は約500万円。9割を寄付金で賄っているため、育成頭数を増やすことが難しいのです。さらに、訓練士の数も全国で80名程度しかおらず、人手不足が顕著です。
この人手不足を補っているのが、ボランティアです。
「こんにちは。よろしくお願いします」
静岡県沼津市の菊谷さん夫婦です。盲導犬候補を生後2か月から約10か月間、家族の一員として迎え、人と一緒に暮らすためのルールを教える「パピーウォーカー」を担っています。
菊谷さんは2024年4月、2頭目となるコスモを迎えました。
<パピーウォーカー 菊谷嘉之さん>
「実際に盲導犬と歩かれているユーザーさんの話を聞いたり、目の不自由な方が歩くサポート役というだけではなくて、人生のパートナーとして気持ちから支えている姿に感化された」
「よし、じゃあ行こうか!」
盲導犬は目の不自由な人と行動を共にするため、指示があった時に排泄することを教えます。人を好きになるようたっぷりの愛情をそそぐパピーウォーカーですが一緒に過ごせる時間は限られています。
<パピーウォーカー 菊谷真美さん>
「終わるときには次はやめておこうかという気持ちも少しあるんですけれども、やっぱり訓練に出してしまうと、もう1回やろうかみたいな」
<パピーウォーカー 菊谷嘉之さん>
「私たちはもちろん辛いんですけど、頑張ってきてねと送り出す気持ちで、そう思うことで乗り切っていこうと思っているので、皆さんにも伝わればいいなと思っています」
富士ハーネスは日本で唯一常時見学ができる訓練施設で、盲導犬の役割や目の不自由な人へのサポート方法について毎日レクチャーを行っています。
<富士ハーネスの職員>
「触ろうとしたり、声をかけようとしたり、食べ物を与えようとしたり、目をじっとのぞき込んでしまうだけでも、皆さんの方に意識が向いてしまって、大切な情報を伝えることができなくなってしまう可能性がございます」
<見学した学生>
「白杖の時よりも盲導犬が来てからの方が歩くスピードが速くなったとユーザーの方がおっしゃっていたので、盲導犬はまだ足りてないし、増えた方がユーザーの生活がもっと良くなるのかなと思いました」
多くの支えで誕生する盲導犬。待っている人すべてに届けていくには私たちの理解と協力が求められています。
<水野涼子キャスター>
盲導犬育成費の9割が寄付金なんですね。景気によって左右されますし、コロナ禍で募金活動が制限されたことも大きいですね。
<植田麻瑚 記者>
そうしたことでボランティアの存在が大きいのですが、パピーウォーカーのほかにも訓練の結果 盲導犬に向かないと判断された「キャリアチェンジ犬」や引退した盲導犬を引き取るボランティアもあります。
盲導犬の活動期間は約8年と言われていて、40歳で視覚障害になった場合は80歳までの40年間に5頭の盲導犬が必要となります。
私たちの協力も不可欠ですが、寄付金に頼らない国の施策も必要ではないかと感じました。
富士ハーネスは、盲導犬のボランティアに関する情報や各種イベントをホームページで公開しています。