人吉での先行上映に来た人「中原さんの船頭さん役を楽しみで来ました」
人吉での先行上映に来た人「水害の経験もあったし、そういうことを含めて見たいと思って」

 

6月26日午後2時すぎ。熊本県人吉市にあるホールで開かれたのは映画「囁きの河」の先行上映会です。

作品を見終わると…会場に“ざわめき?”が起きます。

脚本も手掛けた大木一史監督や主演の中原丈雄さん達が舞台挨拶に訪れたのです。

中原丈雄さん「自分のふるさとでこういう素晴らしい映画ができて、それに参加することができてとても嬉しく思っている」

映画「囁きの河」(ささやきのかわ)

その舞台は、2020年7月の豪雨で被災した人吉球磨地域です。

豪雨から3か月後。母の訃報を聞いた主人公が、水害の爪痕が深く残る故郷に戻ってくるところから、物語は始まります。

先行上映を目前に控えていた先週(6月20日)金曜日、中原丈雄さんに話をうかがうことができました。

人吉市出身 中原丈雄さん(73)「そもそもの映画の起き上がりというのが、球磨川べりに『ひまわり亭』っていう料理店…そこにものすごいキジ馬が置いてある。それが水害で、八代の河口まで流れていって無事に戻ってきたことが絵本になったんですよ」

実話をもとに描いた絵本

この存在を知り、感銘を受けた大木監督が、“被災地の力になりたい”と考え、「囁きの河」の制作を始めました。

中原丈雄さん演じる球磨川下りの元船頭が主人公です。水害で被災した旅館の女将で元恋人役に清水美砂(しみずみさ)さん。その夫役は、三浦浩一(みうらこういち)さん。寡黙で無骨な主人公には、22年ぶりの再会を果たした息子が。演じるのは、渡辺裕太(わたなべゆうた)さんです。さらに熊本出身の宮崎美子(みやざきよしこ)さんも農家の妻役として出演しています。

中原丈雄さん「宮崎さんもね、同じ熊本ですけど、まず言葉がね、熊本市と人吉球磨って違うんですよ。だから、言葉の違いっていうのは宮崎さんも心配して『どうすればいいですかね』って。柔らかくて温かくてニコニコしながら、そういったことを言っていた僕はだいたい他の出演者に方言指導の一人としてやらせてもらっていた」

ところが、それとはまったく逆の出来事もあったそうです。

それは、「木舟の操舵」です。

――経験は?
中原丈雄さん「いやいや、ないですよ。本当にあれが一番大変だった。舟の練習ってのは、その前の年の、12月に2週間やった。渡辺くんはね、覚えが早い。僕は元船頭役だから本当は教えなきゃいけないのに。先に上手くなっちゃって。本当に参りましたよ」

撮影は和やかな雰囲気で進んだそうですが…一転。

レンズの前で、それぞれの役者がみせる演技は復旧復興に向けて懸命に歩む被災者たちの葛藤や覚悟です。

――かなり苦しい状況に置かれた人たちが描かれている反面で、球磨川のことを悪く言う人はほとんどいない。実際に取材しても感じることで…『被災したけれども球磨川はずっと一緒に生きてきたから』と
中原丈雄さん「私は18歳までいたけど離れてだいぶ経つ。それでもやっぱり自分の中に流れている血管と一緒に“球磨川”というのが、体に流れている。球磨川の、川べりで暮らすしかないというよりも、“暮らすのが自分たちなんだ”そんな思いでいらっしゃるでしょうね。映画の場所は、球磨川で撮っているけども、映画の内容、話はもう、どこの県に置き換えてもいいような話になっているので観る人がそれぞれ『河』とともに生きる町は、どうやればいいのかっていうのを多くの人に考えてもらいたい」

映画「囁きの河」
人吉市:6月29日(人吉カルチャーパレス)
熊本市:6月27日(金)から(熊本ピカデリー)
全 国:7月11日から順次公開