「聞く力」と「丁寧な説明」を掲げる岸田首相。だが、マイナンバー制度に伴う健康保険証の廃止方針をはじめ、政策について十分に説明できているとは言い難い状況だ。8月18日、RKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんは、全国戦没者追悼式での尾辻秀久参院議長の追悼の辞を紹介しながら「政治家の言葉」の重要性についてコメントした。

◆小学生の手紙に答えない岸田首相

8月17日の毎日新聞朝刊に、東京・世田谷区の小学6年生が、岸田首相に送った手紙の話が載っていました。書き出しは概ねこうです。

“「戦争は怖いし、絶対にやってはいけないと思っていたのに、ニュースで、防衛費をあげようとしていることを知りました。そこで、岸田首相に『ぜひ聞いてみたい』と、クラスのみんなで手紙を書きました」”

そうして「なぜ軍事費を増やしているのですか?」など、率直な問いが記されています。2月に首相官邸あてに送られましたが、返信はなく、そのことを知った記者からの質問に、首相はこう述べました。「一つ一つにお返事を出すことは困難でありますが、安全保障政策については、国民の皆さんのご理解を得られるよう努めていきます」――これ、答えていませんよね。

「聞く力」と「丁寧な説明」を掲げる岸田首相ですが、この防衛費の件にせよ、マイナンバー制度に伴う健康保険証の廃止方針にせよ、なぜなのか、何のためなのかを十分に説明できていないと感じるのは、私だけではないと思います。内閣支持率は毎日新聞の調査などですでに3割を切りましたが、それは「この国をどうしたいのか」という思いより、政権を維持する、その思いの強さが透けて見えるから、でもあるでしょう。

◆「自分の言葉」で語った尾辻秀久参院議長

そんな、もやもやとした空気の中、心に響く政治家の言葉がありました。終戦から78年を迎えた15日、日本武道館で開かれた全国戦没者追悼式。天皇陛下のおことばに続く「追悼の辞」で、尾辻秀久参院議長が述べた言葉です。

“本日ここに、天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、 全国戦没者追悼式が執り行われるにあたり、 謹んで哀悼の誠を捧げます。

父も32歳で戦死をいたしましたので、私は今日、参議院議長として、また、遺族のひとりとして、ここに立たせていただいております。

私たちは、焼け野原の中、お腹を空かせて大きくなりました。「一度で良いから、お腹いっぱいご飯を食べたい」と思っていました。

母が元気なころ、軽口で「親バカだなあ」と言いましたら「私が親バカでなければ、父親のいないあなたは生きていなかった」。母に諭されたことを忘れることはできません。

その母も41歳で力尽きた時、戦没者の妻の皆さんが母親代わりになって下さいました。

遺骨収集でご一緒しました時、その中のおひとりがご遺骨に語り掛けられました。「子供達をしっかり育てるという、あなたとの約束は、ちゃんと守っていますよ」

私たちは、生きるか死ぬかという中を、肩を寄せ合って生き抜いて参りました。平和で豊かな国を作り上げました。

いま、私たちがしなければならないことは 「犠牲となられた方々のことを忘れないこと」 と、「戦争を絶対に起こさないこと」であります。

平和を守るために、私の経験を次の世代に語り継いで参りますことを戦没者の御霊(みたま)にお誓いを申し上げて、 追悼の言葉といたします。”


参院議長の追悼の辞は、メディアにほとんど取り上げられないんですが、思いのこもった「自分の言葉」ですよね。だから、胸を打ちます。

実は尾辻議長、前年もやはりご家族のことに触れて、「母は、残された私と妹を、女手ひとつで、必死に育ててくれましたが、41歳で力尽きてしまいました。母も戦死したと思っております」と、語っています。